第1057話、晴れたら出発?

「ふぅ、美味かった」

「おいしかったー」

『余は満足じゃー』


 客室にて満腹になるまで夕食を食い、ふぅと息を吐いて茶を飲む。

 使用人は最初こそ驚いていたが・・・いや、今も若干信じられない顔をしているな。

 本当にこれだけ食べるのかという顔をみせつつ、だが騒ぐ事無く食器を片付ける。


 因みに領主一家と食事をしないか、という誘いは受けなかった。

 見事なまでに徹底的に、俺を持て成すが関りはしない、を貫く様だ。

 別段敵意でも嫌がらせでも無く、俺がそう言ったからそうしたと。


 これはただの雨宿り。領主と友好的な関係を築く為の訪問ではないのだから。


「それでもここまで徹底されると、中々愉快だな」

「う?」

『なになに、何か楽しい事あった!?」


 普通なら、一緒に食事でもどうだろう、と誘う所だと思う。

 辺境の領主ですら、その程度の問答で不愉快にならないだろうと考えていた。

 女傑や武王に関しては言わずもがなだ。礼儀だの規則だのが無ければ問題無いと。


 だがここの領主はそれすらも避け、俺に意向を問う事すらして来ない。

 これは逆に中々良い根性をしていると思う。普通の精神なら不安になるだろう。

 万が一この扱いを歓迎していない嫌がらせと思われたら、等と。


 だが先程の兄妹の話を聞く限り、根本的に接触を避けている。

 最初の出迎え時は、あくまで礼儀として取った行動なんだろう。

 後はまあ、俺を見極める為もあっただろうな。


 ただの我が儘な子供なのか、噂と何か違う所があるかと。

 そこでどう判断したにせよ、彼のとった行動は正解に近い。

 何せ楽だからな。面倒は無いのが一番いい。


「シオ、明日は晴れ次第出るぞ」

『兄は雨のお散歩も楽しいと思うんだけどなー』

「シオも、あめ、たのしい」

「俺には解らん感性だ」


 今でこそ、屋内に居る分には嫌いじゃないが、やはり外に出るのは嫌だ。

 濡れると寒いし、降り方によっては視界も悪くなるし、髪も貼り付く。

 何より余りびしょぬれになると、中の服も貼りつくのが気持ち悪い。


 魔術を使えば乾かせるとは言え、出来るだけ雨の中の外出はしたくない。

 雪ならまだ良いんだがな。この外套さえあれば防いでくれる。


「さて、俺は寝る」

『えーまだ寝るには早くなーいー? ねー、妹の妹』

「う? う・・・う~・・・シオも、みーちゃと、ねよう、かな?」

『そうだね、兄もそれが良いと思った!』


 おいこらなんだその掌返し。お前俺の言う事は聞かない癖に何だその態度は。

 思わす精霊を睨むも、シオが俺の隣に寝転がって視界が塞がる。

 そしてニヘヘと笑いながら、俺にすり寄って抱き着いて来た。


「みーちゃー♪」

「・・・全く、広いベッドだと言うのに。大体もう一つベッドが有るだろう」

『妹は解って無いなー。一つのベッドを兄妹で使うのが良いんじゃないかー』

「うっ!」

「・・・お前らは何でそんなに無駄に気が合うんだ」

『兄だからね! 妹の事なら何でもお見通しなのさ!』


 シオと波長が合うのはもう否定しようがないが、俺の事は一切見通せてないだろうが。

 そう思うも反論も馬鹿馬鹿しくなり、シオを抱きしめながら目を瞑る。

 腕の中に子供の体温を感じ、そしてシオも同じ体温を感じているのだろう。


 その温かさが眠気を誘い、お互いの呼吸音と心音もその眠気を加速させる。

 ゆっくりと、心地良く、暖かさに身を委ね、意識を落とした。


 そうしてゆっくりと休んだ翌日。


『雨だー!』

「じゃじゃぶりだー!」

「昨日より雨足強いのは止めろよ・・・」


 天候に文句を言っても仕方ないが、晴れる所か悪化していた。

 空を見た所で天気の予測など出来ず、何時晴れるかなど全く解らない。

 本当なら出発するつもりでは有ったが、こうなると今日も滞在決定か。


「・・・取り合えず、朝食だな」

「うっ、べる、ならす? ならしていい?」

『いいよー。次兄ねー』


 お前の番は一生無い。煩いので絶対にやらせん。

 そうして朝食を頼み、雨が降っているので滞在を伸ばす事も告げる。

 使用人は特に驚く事無く了承し、むしろ当然の事と受け止めていた。


 雨宿りなので雨が止むまでは出ていないだろうと、領主辺りが予測したのかもしれない。


「さて、こうなると・・・流石に暇だな」

『じゃあ領主館の探検でもする!?』

「うっ、探検・・・!」


 探検という単語にシオの目が煌めくが、余り良い予感がしない。

 あの少女か、もしくはその母にカチ合いそうな予感がする。

 とはいえ部屋から動かないと言うのも・・・二人と出会わない所に行けば良いか。 


「シオ、ベルを」

「う? うっ!」

『ああ、次は兄の番だったのに!』


 だからお前の番は無い。シオ駄目だぞ、渡すなよ。絶対にダメだぞ。

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