第630話、門番達の歓迎

「ミクちゃん、お帰り」

「ああ」

『ただいまー!』


 門に近づくと門兵が俺に気が付き・・・というか、弓兵が先に気が付いていたんだろう。

 合図を出して俺の接近を伝え、検問の兵士の一人がこちらに近づいて来た形だ。

 だが兵士は歓迎の言葉を告げるだけで、俺の荷物を検分する気配がない。


「荷物は見ないのか?」

『残念ながらお土産は無いよ!』

「ミクちゃんの荷物だし、別に問題無いんじゃないか?」


 信用されていると取るべきか、油断が過ぎると言うべきか。

 俺の戦績から来る信頼なのだろうが、検分の立場の人間がそれで良いのか。


「俺は世間の常識に疎いから、知らずに危険物を持ち込んでいる可能性も有るがな」

「え、何か拾って来たの?」

『なんか拾ったっけ・・・そうだ羽拾っ・・・粉々になったんだった・・・くすん・・・』


 そんなに気に入ってたのかあの羽。

 精霊にしては珍しく何時までも引きずっているな。

 すんすん泣かれると、流石に若干の罪悪感が・・・湧くか?


 あんまり湧かないな。いや、多少は有るが、そんなに気にならない。

 というかそこまで気に入ったなら、羽を出す力で作ればいいだろうに。


「いや、中身は行きの時と変わらん。増えた物は弁当箱ぐらいだ。これだが、見るか?」

「んじゃまあ一応・・・まあ、うん、ただの弁当箱だね」

『美味しかったよ!』


 速攻で復活しやがったな。これだから罪悪感が湧かないんだよ。

 気にした端から、気にするだけ無駄だったっとなるから。

 そして弁当箱は当然ながら、何の変哲もない弁当箱なので何も起きない。


「そうだ、さっきちょっと事故を起こしかけた。結果的に無事だったが、後から何か言って来るかもしれん。何か壊していたら弁償はすると言っておいてくれ」

『何それ知らない。兄の居ない間に一体何が!?』

「事故? 放置して来たのかい?」

「車が倒れかけたんで、無理やり引き寄せた。少し強めに地面に叩きつけたから、車輪か車軸が壊れているかもしれん。森の魔獣を驚かせた事での事故だったから、一応対処した感じだ」

『おおー、ちゃんと対処した妹偉いねー。よしよし。兄が褒めてあげよう』


 その場で長々話すのが面倒だったから放置したが、アレはこちらに向かっていた。

 なら今日中には到着するだろうし、壊れているなら弁償金ぐらいは出そう。

 懐は温かいしな。売って無いし食っても居ない魔核も多少あるし。


「ふーむ・・・とりあえず話は分かった。つっても森から魔獣が飛び出て来るなんて、この辺に住んでれば普通の事だしなぁ。街の近くでもある事だし、むしろそれぐらい出来ないと門番なんて仕事無理だし。それで車が壊れたから弁償しろは、恥ずかしくて言えないと思うが」

「どうかな。世の中色んな人間が居るだろ?」

『色んなのが居て面白いね!』

「それはそうか。解ったよ、何かそんな事を言って来るのが居たら・・・こっちで対処しておくから、ミクちゃんは気にしなくて良いさ」


 まだ見えない人物を見る様に、目を細めて道の先を見つめる門兵。

 ここに住む兵士がそう言うなら、それで任せておくが。

 俺としては本当に弁償して構わないんだがな。


 まあ良いか。無理に頼む事でも無いし。


「じゃあ通って良いか?」

「ああ、勿論。さっきも言ったけど、改めてお帰り、ミクちゃん」

『ただいまー!』


 用事が有るので早ければ今日中に、遅くても明日の朝にはまた出るがな。

 取り合えず兵士に手を軽く上げて答えると、他の兵士達も俺に声をかけて来る。

 砦の上に居る兵士迄大声でお帰りと、若干大事間の有る状況に少し恥ずかしい。


「・・・とりあえず、荷物を置きに行くか」

『宿に行くのー? じゃあ先ずは腹ごしらえだね!』

「荷物を置いたら先に武具店だ」


 預けていた破片も、手甲に直ってるかもしれないしな。

 あれの受け取りと防具の点検をして、その後は組合だ。

 食事はそれが終わってからだから・・・日が暮れるか。

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