第12話 瞬殺されるひとたち

 バイクの数は、俺の前後に合わせて5台。

 おそらくアメリカンバイクをカスタマイズしたものだろう。といっても、あんまりバイクには詳しくないから、よくわからないが。


 囲まれているとはいっても、広くはない路地。

 前後を囲まれただけに過ぎない。


 連中からすれば、逃げ場のない場所ってわけだろう。


 しかし、俺の知ってる向こう側の世界の常識で言えば、「飛翔の魔術って使えなかったっけ?」「左右の障害物を破壊して……」など、囲まれているとは言えない状況。

 ではあるが、そんな日本的非常識な手段は使いたくない。

 絶対に目立ってしまう。


「おまえが不破悠利か?」


 バイク集団のひとりが言う。


「そうだけど、なんで俺は囲まれてるんですかね?」


「わかってねーみたいだから、一応言っとくけどよ。けっこ―おまえはヤバいことしちゃってるわけなんだよ」


 仮メンバーとはいえ暴風雨の一員である杉山たちをボコボコにして、しかもその様子を拡散した。それを放っておいたら暴風雨のメンツに関わるから、そのケジメをつけたい、ということらしい。


「待て待て。メンツの問題っていうんだったら、動画を拡散させたやつが一番悪いんじゃないか?」


「あはは、愉快犯にお前のせいだー、なんて正論が届くと思う?」


 こいつ、開き直ってやがる。


「それに今、彼らの敵はオレじゃなくて、悠利くん、君なんだよ」


 たしかにそうだ。

 もしこの金髪に問題があるとして、そんなの俺をシメたあとでやればいいってことだ。


 実際、バイクの連中は、俺たちの会話なんかはまったく意に介しておらず、とにかく上からの命令どおりに不破悠利をシメる、ということにしか頭がなかったようで、鉄パイプやら金属バットを持って襲い掛かってきた。


 事を荒立てたくはなかったけど、予想どおりそうもいかないようだ。


 だって、降りかかる火の粉というやつじゃないか。


 《不現の鎖(アンリアルチェイン)》!!


 俺は頼もしい相棒をこの世界に呼び出した。

 

 左手の中指に嵌めた指輪から、光を放つ細い鎖が俺の周囲を取り囲む。


 マモルの存在はとても気になったけど、身を守るためには仕方がない。


 可能なかぎり短時間で始末をつけよう。

 相手から武器と機動力を奪ってしまえば、終わりになるはずだ。


 鉄バットやら鉄パイプは輪切りにしてやればいい。


 バイクに関しては、スケールモデルで何回か組んだことあるから、多少の構造はわかる。

 まあ、車輪を外してしまえば止まるってことは、三輪車に乗ったことがあれば、誰でも理解できるだろう。


 俺は《不現の鎖(アンリアルチェイン)》を一度に5方向に飛ばす。

 

 ヤンキーどもをバイクから振り落として、動けなくなる程度にダメージを与える。このあたりの加減は、前世で習った。


 バイクそのものに関しては、二度と関わってこないようにバラバラにしておく。


 ――これを、ほぼ一瞬。


 連中は、突然の出来事に悲鳴すら上げられないで、目を白黒させているだけだ。


 さすがは我が盟友の《不現の鎖》。ほぼ狙いどおりに動くことができた。


 さて、これからどうするかだ。


「動画とか、撮ってないよな?」


 マモルが動画でも撮っていたら、とりあえず削除させよう。

 ライブ配信されてたら困るが……。


「いやいや、撮ってない、撮ってない。……っていうか、これ、マジで?」


 マモルは俺の行いにかなりビビってた。

 ドン引きって感じ。

 具体的になにをしたのかわかっていないと思うが、俺が瞬く間に敵を無力化したことは理解できたのだろう。


「マモル……で合ってたよな。暴風雨っていうのは、こいつらのほかにどのくらいいるんだ?」


「そりゃ、いっぱいいるよ。リーダーの雨宮くんは、こいつらより数段強いよ」


 俺はちょっと悩んで、


「ちょっとそいつのところに案内してくれない?」


 俺は平穏に暮らしたい。

 自分のことをシメようなんてやつらを放置しておいたら、平穏なんて一生手に入らない。


 《不現の鎖(アンリアルチェイン)》の力が再び手に戻ったから、ちょっと気が大きくなっているのかもしれないが、万が一、この力が今だけ戻ったものだとしたら……。


 おそらくそれはないだろうけど、力はあるうちに使っておくべきだ。


 平穏を守るために攻める。


 なんだろう、この矛盾。


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