異世界にはトンデモナイモノが落ちている……拾えるのは俺だけでした

カラユミ

第1話 俺の命は100円か?

 100円だ。

 そのたった100円を拾おうとして、俺はトラックに撥ねられた。

 23年生きてきて、小さいながら一部上場企業に就職できたってのに、最期が100円で死ぬとか、情けなくて涙も出ねえよッ!


 俺の命は100円か?

 いや、そんなはずはねえッ!


 何か悪いことをしたってのか?

 いや、俺は100円を交番に届けようと思っただけだ!

 断じてネコババ、パクろうとしたなんてことはない!

 神に誓って違うと断言しよう!




 ――――――――素晴らしいィィッッ! なんと心の清い者なのだ!




 どこからともなく聞こえる奇声。

 男のようでもあり、女のようでもある不思議な声音だ。




 ――――――――奇声とは失礼ですね。私は神ッッ!

 あなたのその清い行いに心を打たれたのです。




 怪しさ全開だ……自分で神を名乗るとか大丈夫か?ってここどこだ?

 何も見えない、ただ白いだけの空間だ。

 自分の体すら見えない、意識だけが存在しているのか。




 ――――――――ここは現世とあの世の狭間ですよ。

 それにしても、まさか100円を交番に届けようとしていたとは、今時珍しい清き心の持ち主です。しかし、運命は残酷です。ちょっとした手違いで、あなたは冥府送りになってしまった――――しかし、私は神ッッ! そんなあなたに、特別に異世界でやりなおす権利を与えましょう。それも私の加護付きですッ!



 異世界? 加護?

 生き返らせてくれるってのか、それも特典付きでか!

 加護ってのがどんなものかが問題だな。




 ――――――――加護はあなたに、最も相応しいものが出現します。

 何が出るかは、異世界に行ってからのお楽しみ……。




 それだけ言い残し、声は聞こえなくなってしまった。

 それと同時に白い世界が一瞬輝くと、意識が遠退いて何も感じなくなった。



        ◆  ◇  ◆



 目が覚めると、雑踏の中、一人空を仰いで地面に寝転がっていた。

 通り過ぎる者は、皆日本人とは似ても似つかぬ目鼻立ちで、着ている服も見慣れぬものばかりだ。


「ここが異世界なのか」


 起き上がると、スーツ姿の自分が完全に浮いている。

 どうやら死んだ時の姿のままのようだ。

 とりあえず全裸じゃなくてよかった。

 問題は言葉が通じるのか、加護とか言ってたが、それが何なのか、どうやったら使えるのかが不明な点だ。


「すみません、俺の言葉がわかりますか?」


 無害そうな通行人のおっさんに声をかけてみる。

 もし言葉に壁があるなら、俺は生きていくのを放棄しないといけないかもしれない。


「ん? その格好は、あんた異界人だな? それだったら異界管理事務局に行くといい。ちょくちょくあんたみたいな異界人がやってくるから、生きていけるように力になってくれるぞ」


 どうやら言葉は通じるようだ。

 それにしても、ちょくちょくやってくるとか、あの自称「私は神ッッ!」とかいう奴が言ってた、特別に異世界でやりなおすってのは嘘決定だな。

 まあ、それでも加護ってのがあるみたいだし、きっと俺だけ特別なんだろ。


「それで、その異界管理事務局ってのは」


「それなら目の前、そこの建物だよ。頑張ってきな」


 そこは二階建ての古臭い石造りの建物で、大きな看板には、『異界管理事務局』とデカデカと書かれてある。

 どうやら字も読めるようだ。

 管理局に入ると、元気な受付嬢の声が聞こえてくる。


「ようこそ、レイナス王国へ。ここは異界人のためのスキルブック発行所です」


「スキルブック?」


「はい、この世界は他の世界とは違い、各自スキルブックから能力を得て生きています。異界人も安心して暮らせるよう、生きていけるだけのスキルを与えるのが、ここの仕事となっています」


 加護なんてなくても貰えるんじゃねえかよ。

 やっぱりあの「神ッッ!」の言うことは信用ならねえな。


「そして、あなたは記念すべき一万人目の異界人です。特別製のスキルブックを進呈しますね!」


 受け取ったのは、まんま御朱印帳なんじゃないのかと疑いたくなるものだ。それも金色仕様とか趣味悪すぎだぜ……。


「その表紙に左手を押し付けてください。熱を感じたら、あなたに相応しいスキルが刻まれます」


 言われた通り手のひらを押し付けると、もの凄い熱さを感じ、思わず離してしまった。

 それを見ていた受付嬢の顔色が、さっきまでのものとは明らかに変わる。


「そんなに熱いんですか! それは期待できますね!」


 スキルブックを開くと、ほぼ真っ白の中、一つだけスキルが現れた。

 それは目を疑うスキルで、何度も目を擦って見返したが、やはり見間違いではないようだ。


「えーと、現れたのは【拾う】ってスキルだけなんですけど……」


「拾う? そんなものは見たことがないんですけど……もしや、あなたの適性はゴミ漁り?」


「ゴミ漁り言うな! 適性がゴミ漁りってなんだよ、親が聞いたら泣いちまうぞ!」


 あの似非神め、何が加護付きだ! ふざけんじゃねえぞッ!

 加護が【拾う】とか舐めてんのかよ。


「とりあえず、管理局でやれるのはここまでですので、頑張って生きてください」


「見捨てるのかよ」


「見捨てられても、そのスキルがあれば生きていけるじゃないですか。ゴミ漁りとして……」


 不憫そうな目で見るんじゃねえ……泣きたくなるじゃねえかよ。

 最期が拾って死んだからだな、そうだな?

 もし腹上死だったら、加護は【ヤリチン】とかになったのかな……。まあそんなものよりはマシだと思いたい。いや、ヤリまくれるのなら、まだそっちのほうがいいかも……。

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