第5話 親切おにいさんはいそいで宿を飛び出しましたとさ

 魔工具ツール。魔工技師にとっての命。もちろん、カインにとっても。

 バリィ達にとっては価値のないものに見えていたようだったが。

 彼女の翠玉色の瞳に見覚えがあった。カインの鍵盤キーボードに浮かぶ魔字にそっくりなのだ。

 それが何故、人の姿をしているのか。助けたってどういうことか。聞きたいことは山ほどある。

 しかし、それをゆっくり聞いている暇はない。


「とにかく! 一旦行ってくるからそれまでは待ってて! お願いだから!」

「お願い……ですか?」

「お願い!」

「かしこまりました。お願い、うれしいです」

「……!」


 無表情な彼女ではあったが、なんだろうか、うきうきといえばいいのか、ふんわりとした雰囲気が身体から溢れていた。

 ずっとその様を見ていたいくらいの美しさだったが、そうもいかない。

 カインは部屋の扉に手をかけ、彼女に声を掛けようとすると。


「忘れないでください。あなたはすごい人です。わたしは知っています。胸をおはりください」


 相変わらず、彼女の翠玉色の瞳にははっきりとカインが映っている。

 すこしばかり、自分を取り戻したカインが。


「ありがとう!」


 カインは魔防布を持って、領主の屋敷へと駆け出した。

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