恋人を奪われパーティーを追放された親切おにいさん「あの時助けていただいた〇〇です」が揃って恩を返しに来て気付けば前パーティーを追い抜いてざまぁしていましたとさめでたしめでたし

だぶんぐる

第一部 親切おにいさんが追放されましたとさ

第1話 親切おにいさんは恋人を奪われ追放されてしまいましたとさ

「カイン、お前を追放する」

「え……」


 カインは突然告げられた言葉に驚くことしかできなかった。

 理由は分かる。けれど、それでも一縷の望みをかけて聞いてみた。


「り、理由を、教えて、くれ。な、直せるところがあれば……」


 『直す』その言葉すら待たずに、パーティーのリーダーであるバリィは大きな声で伝える。


「ステータスが低い! それ以上の理由があるかよ!」


 予想はしていたことだった。

 カインはこのパーティー【輝く炎】の中で飛び抜けてステータスが低かった。


 ステータス主義。

 今、世界中の冒険者達の主流はコレだった。

 『計測球』と呼ばれる魔導具が開発され、冒険者たちの能力を数字で表せるようになった。

 その魔導具がギルドに設置されたことで、冒険者の実力が数値化され、冒険者の依頼クエスト達成率や事故・死亡率が格段に下がった。

 しかし、それによりステータスの低い冒険者は敬遠されるようになった。


 カインもまさにその一人であった。

 魔工技師という魔導具を扱う職業ジョブとして魔導具を駆使することで戦闘等に貢献していたがそれでもステータスの差は完全に埋めることは出来なかった。

 カインはそれでも、なんとかここに居させてもらえないか縋るような目でバリィを見た。


 しかし、そんなカインの表情はバリィには見えていないのか見るつもりもないのか意地の悪い笑みを浮かべているだけ。そして、隣にいたもう一人の前衛、ティナスが紙の束に目を落としながら代わりに言い放つ。


「それに、お前はウチの依頼クエスト達成の速さを落としている。いちいち色んなことに首を突っ込むからだ」


 カインは根っからのお人よしであった。困っている人がいれば手を差し伸べずにはいられない。本来それは褒められるべき性質なのだが、バリィやティナスにとっては邪魔でしかないと考えていたようだった。


 冒険者はギルドに来た依頼クエストを達成することで評価を得てランクを上げる。なので、ギルドを通さないものはランク評価につながらない。その上、それらに関わっていればいるほど依頼クエストに取り掛かるまでに時間が掛かる。


 ただ、カインは時間外で人助けをしており、遅くなるのは専らバリィのせいなのだが、それを指摘できるものはいない。このパーティーでバリィのステータスが圧倒的に高いからだ。

 ティナスは徹底した数字主義。ステータスが高い者が絶対なのだ。


「う……そ、そうだ。メエナ、君はどう思う?」


 カインは、バリィではなく、回復術師ヒーラーのメエナに聞いてみた。

 メエナはカインと恋人同士だった。カインがこのパーティーにこだわった大きな理由はそれだ。恋人であるメエナも一緒に反対してくれるだろう。そう思っていた。


「カイン……元気でね。さようなら」


 一瞬、何を言われたか理解が出来なかった。そして、理解するよりも早くメエナの視線がバリィに注がれた。その目は恋慕の目。そして、バリィはそのメエナの視線を受け止めニヤリと嗤う。そこでカインは漸く理解が出来たのだ。

 メエナがバリィに奪われていることを。


「う、うあ、あ、ああああああああああ!」


 そこから先のことをカインはあまり覚えていない。口下手で感情表現が苦手なカインは自分でもコントロール出来ない激情のままにバリィに飛びついた。しかし、力はバリィのほうが圧倒的に上。


「はっはっは! どうした!? 狂ったかカイン!」

「カイン最低! やめなさいよ!」

「呆れたな、お前如き低ステータス者が俺たちに勝てるものか」


 五月蠅い五月蠅い五月蠅い!


 カインは我武者羅にバリィにしがみ付いた。

 しかし、ステータスの違いは明らか、バリィに引き離され、床に叩きつけられた。

 その後は酷いものだった。バリィにサンドバッグにされ、メエナとの甘い会話を見せつけられ、二人に大声で散々笑われた。ティナスはその間こちらを一度も見ることはなかった。


 そして、徹底的に痛めつけられたカインは、宿屋の外に放り出された。

 今までの戦利品や分け前の金は奪われ、装備だけが返された。

 それも、情けではなく、カインは魔工技師という特殊な職業で、誰も装備できないし売ってもそこまで価値がないと思われていたからだ。


 価値がない。


「あ、あ、ああぁああああああああ……」


 カインは宿屋の前で仰向けのまま泣いた。

 人目も憚らず泣いた。

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