メイドカフェのダメダメメイドに貢いだら、めちゃくちゃ好かれ始めた件。さらに彼女歴ゼロの俺がなぜかモテ始めた。

未(ひつじ)ぺあ

第1話 メイドカフェ

綾斗あやと、今日暇か? 今からカフェ行かねえ?」

「お前がカフェとか言うのキモいな……」

「な、なんでだよ! で、行けるんだな?」

「ああ、今日バイトないし、せっかくだから行くわ」


高3の夏、セミがうるさく鳴く中。

俺、早川綾斗はやかわあやとは授業終了後、汗を拭いながらも学校を出た。


夏は地獄だ。暑いし勉強に集中できんしで、いいこと一つもなし。グラウンドから聞こえてくる部活の音も、暑さをかさ増しさせている。


「よーし、なら決まりだな! いやーよかったよ、どうしても行ってみたいカフェでさー」


隣で嬉しそうに飛び跳ねるのは、アホの南だ。不覚ながら俺の親友である。


いつもは女とゲームのことしか考えてないくせに、今日はカフェに行こうなんて気持ち悪いことを言ってきた男だ。


俺は南をちらりと睨みながらも、靴紐を結び直した。


「……でも、本当に怪しい場所とかじゃないんだろうな? めっちゃ高いとか」

「大丈夫大丈夫! まあ彼女いなかったら大丈夫だろ」

「どういうことだよ!?」


南に引っ張られながらも尋ね返すが、一向に返事が返ってこない。


「彼女いたらまずいのか? ますます怪し……」

「そもそも綾斗彼女いないだろ? それに、怪しくないってー」

「お前も今いないだろ!!」

「バレた」


南はぺろりと舌を出し、すぐにスマホをいじり始める。と、スマホに住所を浮かび上がらせ、歩き始めた。俺も仕方なくその後に続く。



ちなみにこの俺、人生一度も彼女ができたことがない。

それは好きな人ができたことがないからであり、決して俺がモテないからではない。(圧)


長めの黒髪に、冴えない顔。だぼっと着崩した制服、緩めたネクタイ。


勉強は、テスト前だけしか勉強しないから、当然悪い。


性格は……自分では仏のような心だと思っているが、本当のところはわからない。



つまり、どこかしまらず、女子運がゼロに等しいのも納得できてしまうような男、それが俺なのだ!(誇)



その反対で、南は、人懐こい性格と、子犬のような容姿で、かなり女子に人気らしい。

そのせいで、彼女はこれまでに三人くらいいたとか。そんなのくそ食らえだが。


南の顔にがんを飛ばしていると、南が眉をひそめて俺の方を見た。


「えー綾斗、なに俺の顔じろじろ見てんの? もしかして、イケメンに嫉妬? うわないわー」

「は?」


ちなみにこの南とは高1からの付き合いで、何かとマウントを取ってきてうざい。

つまり、性格もくそ食らえだ。


しかし、サッカーはできるわ勉強も謎にできるわ。ウザいの塊だ。


俺は大きくため息をつき、大きく伸びをした。


「あーキンキンに冷えたカフェラテをあおりてぇ」

「お前は親父かなにかか。酒は違法ですよおー」

「カフェラテだって言ってんだろが!!」

「わー怖ぇ、暑さは人間を老かせますねえー」


俺が南に無言でタックルすると、南は俺から逃れるようにして距離を取り、にへらと笑って見せる。


「八つ当たりは良くないですなあ」

「うざい」

「知ってるー」


俺たちはその後横にならび、ひたすら道を歩く。



「……っー」


暑すぎて、周りの地面がゆらゆらと揺れて見える。


とにかく、冷えたドリンクが飲みたい。暑さで、汗がぽたぽたと顎から滴り落ちる。


「なあ、綾斗は彼女ほしくないのか?」

「はあ?」


と、いきなりの南の言葉に、俺は思いっきり眉をひそめた。


「なんなのさっきから、キモいんだが」

「まあまあーいいからあー」


その南の猫なで声もかなりキモいが、俺は思い切ってスルーすることにし、胸元のシャツをぱたぱたしながらも口を開く。


「まあー、ほしいよな。ほしい。ほしいよ!!」

「わおびびった、てか本音で笑える」

「お前が聞いたんだろうが!!」


俺が南に掴みかからんばかりに近寄ると、南はひょいと避けながらも挑戦的に笑いかけてくる。


「ま、俺彼女歴ありますし? 童貞卒業してますし? 女経験がないやつにはわからないこともあるってことよ」

「なんかうざ」

「だっ!」


ケリを入れておくと、あっさり南がすっ転ぶ。格好悪いからその横を足早に通り過ぎる。


「というか、好きな人ができねえんだよ」

「それは、美少女がうちの学校にいないからか?」

「はあ……別に美少女だからいいとかはないけど」


南が地面を這いずりながらも尋ねてくる。


まあ確かにそれはあるかもしれない。理想が高すぎるのかもしれないが。


「でも安心しな綾斗。お前にはまだチャンスがある。とびっきりの美少女と会う方法が」

「は?」


と、慌てて追いつきながらも南が俺ににやりと笑いかけてきた。気持ち悪いうっとおしい怪しい。

が、突っ込んでおかないと後々面倒なので、仕方なく聞きかえす。



「……チャンスってなんだ」

「よくぞ聞いてくれました。それはー……お、ついたついた」


何かを言いかけたところで、南はぴたりと立ち止まった。


「おっしゃ、ここかここか。ほおー」


南はスマホと照らし合わせながらも顔を上げた。


「高かったら奢らせる。許さねえ」


とにかくひんやりとした飲み物。あわよくば、アイスかケーキが食いたい。

俺はのろのろと視線を上げ、



「……は?」

「よし入ろっか、綾斗!」



『ご主人さまのおうち』――そう、ピンク色の看板に書かれた店。


ピンク一色に塗られた壁に、流れるポップな曲。


心なしか甘い香りが漂い、特におじさんが頻繁に出入りしている。



これは……俗に言う、メイドカフェとやらじゃないのだろうか。

メイドのコスプレをした美少女が接客をしてくれる系の、あれ?



「おい南、話が違……おい離せ!」



逃げようと思ったが、南に腕をがっちりと掴まれているせいで逃げられない。



「カフェはカフェでもメイドカフェはないだろうがあ!! っておま、待っ、おい……」



俺の言葉虚しく、南が大きく扉を開けると――ピンクに包まれた店内で、メイド服に身を包んだ、ごく美少女たちが俺たちを迎え入れた。



「「「お帰りなさいませーっ、ご主人さまっ!!」」」



巨乳をはみ出させ、太もも丸出しのメイド服。

さらに、メイクで彩った華やかな顔をしたメイドたちが、嬉々として俺たちに近寄ってきた。


「あれっ、かわいい男の子たちだあ、お帰りなさいっ♡」

「どおぞどおぞ、席に座ってね、ご主人さまっ!」

「メニューはどうするー? って、きゃ、かわいい♡ 顔が真っ赤♡」



「むふふへへ……」

「南」

「へへへ……ん?」

「後で殺す」




南にしっかり殺人予告をした後、俺は虚しくカフェの中へ連行されたのだった。

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