カウボーイビバップ00
黒猫chiva
第1話 冥王星へようこそ
「目が覚めたかね」
一度聞いた声だ。
そうか、さっき。
「まる二ヶ月か。君の身体を調べさせてもらった。義眼以外は突出して後遺症は無いようだ。ロスト・マインド・チップは対象年齢から外れているため検出されなかった。髪から検出された年齢より実年齢は20代後半。身体能力は20代から30代の中でもずば抜けている。IQは平均値より少し上、反射神経はスポーツ選手に引けを取らない。戦闘時の瞬発的な判断能力はプロそのものだ。」
「君の歴史が知りたくなってね。少々調べさせてもらった。レッドドラゴンでの君の経歴も含めて。」
「素晴らしい逸材だよ。本当に素晴らしい。エージェントとして申し分ない。」
「どうかね、考える時間は与えていないが、我々に協力してくれんかね。」
「悪い話じゃない。それ相応の報酬も用意しよう。必要な物資の提供も惜しまない。それに、君が生きていた時代も面白かったが、現代もそう悪くない。」
「今何年だ。」
「やっと気づいたかね。君はあの抗争の後、とある人物によって蘇生の段取りがつくまで、半永久的にコールドスリープさせられていた。」
「どっかで聞いた話と似てるな」
「君が昔乗っていた漁船[ビバップ号]の乗組員を集めたかったのだがね。」
「半世紀以上君の身体は復元できなかった。」
「技術的な話でなく、社会通念からくる倫理的な問題でね。コールドスリープを解除される恐れもあった。我々が手を加えた結果が今だよ。」
「そもそも我々は、諜報部員・スパイを養成している部門とは少し価値観が違ってね。」
「過去に実在しているマフィア・スパイなど幹部候補・名を馳せた人物の、血縁関係者からクローン人間を作ってきた。記憶の復元もそこそこ精度高く行えるようになってきた今となっては、君で行った方法は少々費用がかかるのだが。」
「それでも我々としては、琥珀の中の蚊に入っていたDNAから取り出して作った人間よりも、冷凍保存されていた実在した原始人を生き返らせたかった。言葉が通じていると信じているよ。」
「今が何年にしても、俺に自由は保障されていないんだろうな。」
「その通りだと言いたいところだが。
抜け道はある。君の戦闘意欲が著しく低下し、もう諜報部員として利用価値がなくなった場合は、あるいは。」
「殺すんじゃないのか。」
「我々の星の話をしていなかったな。
結論から話すと、倫理規定違反になるので、命を粗末にすることはない。
我らが母星、冥王星はその歴史を、
地球上に存在した、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国まで遡る。
しかしながら、現存する国の価値観としては、地球に存在したスイスのような国を連想してもらうとわかりやすい。
つまり冥王星は表向きが中立的な立場を主張する国でね。
星に存在する国々は州のようなものであり、その国々、州の見解、冥王星としての見解としては、星(国)を守る基本的自衛、防衛のための軍事力の強化という結論を出してきた。」
「だがしかし、過剰な防衛は、過剰な軍事力の増強という結果を招き、不必要な諍いの種を蒔くこととなったがね。今となっては、星を出た途端、昔の教訓を忘れ、原始人にでも、戻ったかのようだったよ。」
「防衛と防御を見誤ってきたと気づいた時には、地球から遠い星に来ていたのだ。」
「現在は軍事力ではなく、国交における交渉力の強化、外交に注力している。」
「その中で必要な外交カードという名の情報収集を、諜報部員たちに行ってもらっている。」
「我々は力を放棄した。しかし、情報という、この世界における最も貴重な枯渇することのない資源を手に入れた。」
「情報はその精度・鮮度・密度のどれが欠けても質の良い情報とは言えない。」
「スパイにさせたいのか、ならそう言えよ。」
「悪かった。我ながら歳をとると話が長くなるものだ。」
「頭は悪くない。度胸もある。これで技術が加われば相当な手練れになるな。」
「殺しの技術か?」
「人生で培われた技術も相当なものだろうが、こちらとしては、プロを必要としていてね。案件を用意させてもらい、それをこなせるかどうかで、我々が求める逸材かどうかを判断するとしよう。」
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