K18.壊れかけの繋がり
「そっか……そういうこと」
俺たちが二人でここにいた理由を一通り綾川に話すと、綾川は納得したように頷いていた。
「なんというか、意外かも」
「そんなにか?」
「うん。神戸さんが好きって隠せてるつもりだったんだね」
「そういうこと……?」
もしかして、周りには普通にバレているのだろうか。だとしたらめちゃくちゃ恥ずかしい。
「でも、少なくとも僕は神戸さんの好きな人じゃないよ」
「なんでそう言えるんだよ」
「僕があの人の好きな人を知ってるから。最近は特にわかりやすくなったよ」
「……マジ?」
一瞬思考を巡らせそうになるが、今はそんなことよりも神戸のことだ。ちらりと隣に座る御調に目を向けると、靴を脱いで膝を抱えて、しっかり落ち込んでしまっていた。
「ごめん明石……あーしとんでもないことを……」
「うん、まあ。仕方ない」
「いや許しちゃダメ。明石、優しすぎだから。許さないで」
「でもなぁ……」
ふざけて言ったわけじゃないのもなんとなくわかる。どうすれば神戸が許してくれるのかを必死に考えているんだ。謝れたらいい、許してもらえなくていいと言っていても、やっぱりまた神戸と笑いたいのだとわかる。
だから、神戸が怒る必要がないと言ったときに俺と付き合ってることにすればいいと思ったのだろう。
「もうほんと、死にたい……」
「そんなに思い詰めないでほしい」
「……ごめん。今は落ち込んでる暇ないよね。うん。やれることやんないと」
「ちょっと待ってね。そろそろ来ると……あ」
「よーっす陸斗に栞凪……あれ? 優希と紡?」
そこにいつもの調子で顔を出してきたのは、楓さんだった。どうやら綾川と神戸になにか頼まれていたらしい。店内を見渡して神戸がいないことを確認すると、首を傾げて苦笑を浮かべた。
「どゆこと?」
「あー、いやぁ……」
後が面倒そうなので俺が神戸のことを好きだという話を隠して事情を説明すると、腹を抱えて笑ったあと真剣に言った。
「えっ、優希はなんで紡と一緒に栞凪のストーカーしてんの?」
「聞かないでください」
「いいけどさ。そっかそっかー、そんなことにねぇ」
「逆に楓さんはなんでここに?」
「んー? 栞凪に頼まれたんよ。勉強の教え方を教えてーって」
なるほど。俺以外の意見も参考にしようとしていたらしい。真面目な神戸らしい理由だった。俺ももっと頑張らなければ。
「まっ、正直に言うのが一番じゃん?」
「っすよね。明日……」
「いや、今日でしょ今でしょ。紡は栞凪んち知ってるよね?」
「あー、はい」
家から遠い中学に通っていたため、クラスメイトの家なんて知るはずもない。ずっと俺は燈第一だったので気にする暇もなかっただけだが。というか、今から行くの?
「ん。じゃ、うん。行こっか」
「お、おう」
神戸は出てきてくれるだろうか。変な誤解が解けたらいいけど、より面倒なことになりそうな気がしないでもない。でも、このままでいていいはずもない。
とりあえずパンケーキとコーヒーの代金を払って喫茶店を出る。
「やっぱりあたしも行こうか?」
「いいよ。ありがとう、楓さん」
「なら、いんだけど」
心配そうに俺を見る楓さんに、そう笑って手を振る。綾川と楓さんにも申し訳ないことをしてしまった。
「御調も、いいよ。大丈夫」
「えっ? や、でも……」
「住所だけ教えてくれるか?」
「……ん、わかった」
御調は鞄からメモ用紙を取り出すと、さっと神戸の家の住所を書いて俺に手渡してきた。二人で行って余計に拗れるのもよくないし、なにより今はむやみに御調と神戸を合わせるべきじゃないと思う。
それに、こんなときでなかったら神戸と話せないこともあるだろう。
御調からもらったメモを見て、とりあえず駅に向かう。少しだけ学校からは遠いらしい。
「ん……?」
時間を確認するためにスマホを見ると、数分前に通知が来ていた。シオリの配信開始の通知だ。
『ごめんねー、ちょっと今落ち込んでて。あ、もし初見さんいたらこの配信見ないでいいからね。うん。んにゃー、ちょっとねー?』
シオリは流れてくる挨拶コメント一つ一つに名前を呼んで反応しながら、カメラに向かって手を振って。そんなシオリにはたくさんの慰めのコメントが来ていた。
『いやー、ね? その。わたしさー、好きな人いるんだー。いやこれ系言うとフォロワー減るかな? はーい、わたしのガチ恋の人手ーあーげてー!』
シオリの呼びかけに手を上げる絵文字や『ノ』と言ったコメントをする人、対して『ヘ』のコメントを打ったり真面目に答えたりする人。『へーとかのーとかめっちゃ久しぶりに見たー!』なんて笑うシオリに、これまたたくさんのコメントが集まる。
全てとは行かなくても集まったコメントを丁寧に返す。なるほど、神戸はいつだってそうなんだ。
『ん……シオリさんのことは本気で好きだしリアイベとかあるなら行きたいし喋りたいけど、それはそれとして恋とかもちゃんとしてほしい……えっ、えっ、えーっ! なんか、うん。ありがとー!』
良いリスナーだ。かわいいし、こんなにも明るい。好きになってしまうリスナーがいてもおかしくない。
『やー、でもなんか今の見たら元気出た! みんな一緒にちょっとゲームしよっ!』
シオリは画面の一部にゲームの画面を表示させて、その上に『三十分くらい!』と書き足した。俺が行くまでには終わるみたいだ。
参加型でゲームをしているシオリは、どこか浮かない表情にも見えるが、けれど楽しそうにゲームをしていた。俺が思ったよりもしっかりゲームが上手いシオリに、リスナーは容赦なくアイテムをぶつけたり謎の結束を見せたりしていた。
『あ、あのさぁ!? あれ、さっきみんなわたしのこと好きって言ったよね!? えっ、えーっ!? ひどくない!?』
それでもなんだかんだ上手く立ち回っている。ゲーム、得意なんだな。
シオリがゲームを始めて三十分ほど経った。俺も電車を降りて、御調からのメモを見る。ここから十五分ほど歩くらしい。行く前にLINKを送っておこう。スマホの画面分割機能を使って、シオリの画面を映しながらLINKを開く。
『よっし! 今日はそろそろ……んー? 話したいことがあるから家行く? ちょー、なにストーカー? そーゆーのやめなっ……て……あー、うん。そゆ、ね。わかった』
「はぁ!?」
急に送ったメッセージを読み始めたので咄嗟に声を上げてしまった。いや、違う。
「俺がミスってた……」
とりあえずメッセージを送ろうと考えていたらチャットの方に送っていたらしい。画面分割なんてするんじゃなかった。
『待ってる。てなわけでー、今日の配信はここまで! ゲリラだけどちょっとわたしのテンション低かったからアーカイブは残しません! 代わりにまた今度配信するね』
そう言ってシオリは笑顔で配信を終えた。その直後にLINKにメッセージが来た。
『待ってるから』
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