7.同級生と後輩と妹と
「んじゃ、優希と栞凪はあたしんとこ来ることー」
「はいはい……」
連日呼び出されるのにももう慣れた。あらぬ疑いを招いていたが、今日は神戸も一緒に呼ばれたのでその疑いは晴れた。というか、勝手に疑って遊んでいた奴らが飽きた。
職員室に向かう途中で、神戸と会った。一緒に教室を出たわけではないが、出た場所と向かう先が同じなので会ってもおかしくはないな、と思いそのまま何事もなく神戸の隣を歩いた。
「あ、優希、栞凪。こっちこっち。三人……あ、燈もいるんだっけ。じゃ、四人はこの部屋使って。基本放課後はだーれも使わないから!」
「なんか使えばいいのに」
「あたしもそう思ってたんだけど、まあ都合よく優希たちに提供できたからよしっ! 鍵は優希と燈に渡しとくね」
渡された鍵には『第二会議室』と書かれていた。ほんとにここ使わないの? 大丈夫?
そんな疑問を持ったのは俺だけらしく、神戸はキラキラした瞳で俺と会議室を見ていた。鍵を開けると、上機嫌なまま会議室に入っていった。
「なんでそんな楽しそうなの」
「えー? だってなんか、秘密の関係みたいで良くない?」
「まあ、言いたいことはわかるけど」
星島さんと燈にメッセージを送りながら、神戸の言葉に返事をする。確かに、秘密の関係ではある。俺の場合は神戸の友人にこうやって勉強を教えていることがバレたら裏で何を言われるかわかったものじゃないが。
先に返信が来たのは燈だった。神戸がいかにもなにをしているのか気になっていますという様子でこちらを見ていたのでスマホの画面を見せてあげると、驚いたように笑った。
「見せていいの?」
「俺のLINK、神戸と後ろの席の綾川、楓さん、件の星島さん、燈とあと一人しかいない」
「あ、あー……うん! 友達って多い方がいいとかそういうわけじゃないと思う!」
「そうだね」
この数日で倍になってしまったが、その言葉は嘘だとしても共感できる。数の問題じゃない。でももう少し誤魔化すのが上手くなってもいいと思う。
「妹さん、もうすぐ来るんだ」
「燈でいいと思うぞ」
「えっ、えー? いいのかなぁ」
「妹さんって呼ばれる方が気を遣うと思う」
「な、なら……燈ちゃん」
今のは、俺の妹の燈の呼び方だろう。なんとなくそんな気がした。
五分ほど待つと会議室のドアが開いた。ひょっこりと茶色の鮮やかな髪が靡いて見えた。
「どうもー、さっきぶりです」
「燈ちゃーん! こんにちは!」
「こんにちはです。あら? もう一方はまだですか」
「……正門で迷子らしいから迎えに行ってくる」
「おお、大変だ。いってらっしゃい、優希」
「わたしも行こうか?」
「いや、いい」
少なくとも星島さんは俺のことは多少信頼してくれてはいるようなので、とりあえずは俺だけが行けばいいだろう。神戸はどうしても着いてきたそうにしていたが、燈が話を振ってくれたので着いてくることはなかった。
校門に着くと、星島さんがへたりこんでいた。というか、このためだけに今日は頑張って学校に来てくれたのか。健気すぎて頭を撫でてやりたくなる。かわいらしい子だ。
「星島さん」
「あ……先輩っ!」
「ごめんごめん、会議室とか言われてもわからないよね。一緒に行こう」
「はいっ!」
俺の服の袖をきゅっと掴んだ星島さんは、そのまま少し引っ付いて着いてきた。
かわいい子だな、と思う。普通に登校できるようになったら、きっと人気者だ。星島さんは好きなことを話すのもわりと好きそうだし、きっと友達とかもたくさん出来る。そんな日が来るといいな、と柄にもなく思ってしまう。
上履きに履き替えて、会議室に向かう。星島さんは不安なのか、今度は少し強めに袖を握った。手とかでもいいのに。
「お待たせ」
会議室では神戸と燈がじゃれ合って待っていた。仲良くなれそうでよかったよ。
「ああ、おかえりー……えっ」
「えっ……えっ!? 友梨ちゃん!?」
「ナナホシさん!?」
燈と星島さんは顔を合わせるなり驚いたような声をあげた。ナナホシとは?
「あ、やっぱり知り合いなんだ」
「知り合いというか……わたしがファンなんだよ。ほら、前に優希にも見せたことあるでしょ。すっごく綺麗な写真撮る人って」
「えっ。あれ星島さんだったの?」
「そ、そっか。ナナホシさんが星島さんなんだ」
燈の方はだいたい状況がわかったようですぐに落ち着いた。が、星島さんの方はそうでもないようで、俺の服の袖を掴んだままぽかんと口を開けてへたりこんでしまった。その場にいた神戸も何が何やらといった顔をしている。
「星島さん?」
「とととともともりちゃんがあれ? ともりちゃん? わぁ、ともりちゃんがいる!」
「星島さん戻ってきて!?」
「ナナホ……星島さん、落ち着いて。わたしは現実にいるよ。おーい」
「はっ! ……えっ、近、無理……」
「ちょっ、星島さん!」
燈な接近されて星島さんは教室のドアに思い切り頭をぶつけかけた。なんとか手を回すことができたが、星島さんはぐったりと俺に体重をかけたまま動かなくなった。
「えぇ……」
キャパオーバーらしく俺の腕の中で動かなくなった星島さんは、そのまま寝息を立て始めた。忙しないなこの子。そしてわりと図太いな。
「えっ。優希はいいのか。なんで。ちょっと悲しい」
「まーまー。とりあえず、星島さんが起きるまで勉強しとこっか」
「そうだな。とりあえず、神戸がどれくらいできるのか知りたいからテスト作ってきた」
「えっ……えっ、えーっ!? 一日で!? すご、いやすごすぎ! でもってやさしー!」
「神戸が俺のこと先生って呼んだんだからな。これくらいはする」
「あーんやーさーしー! ありがと、ユキせんせー!」
神戸は俺からテストを受け取ると、自分でスマホのタイマーをセットして勝手に始めてくれた。燈も自分で勝手に教科書を取り出して、俺のところに持ってきた。
「この辺ささーっと教えてくれるかな?」
「了解」
燈への教え方はわかっているので、神戸が問題を解き終えるまでは燈の面倒を見ることにした。
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