最終話 エピローグ
玲奈が真乃を思い出す可能性はゼロではない。何かしらのトリガーが存在するのかもしれない。しかし、真乃は大胆な方法で封じこめた。
確かにこの世界で真乃と玲奈は過去に出会っていない。嘘は吐いていない。
そして出会うことが必然というのは正しかった。
ただ、皆が何かしらの拍子で真乃の存在を思い出すかもしれない。それは懸念であるのと同時に蓮には嬉しい誤算だと思ってしまった。
思い出して欲しいが、思い出して欲しくないこともある。
矛盾しているとわかりながら、蓮は何が起きても真乃を守り通す覚悟を決めていた。
✦
ある日、真乃はかつて通っていた女子高の最寄り駅に設置されている長椅子に腰を掛けていた。
女子のグループを目で追いながら、彼女が現れるのを待った。
「藍子、適当なことを言わないでよ」
「本当だって」
「もう、藍子は冗談が下手なんだから」
3人組の女子生徒が真乃の前を通り過ぎる。
真乃は彼女たちが通り過ぎると、椅子から立ち上がって改札へ向かって歩き出した。
藍子は変わらず美人で、あのときとは違って良い友達にも恵まれているようで真乃は安心をした。
「ちょっと、ちょっと待ってください!」背後から藍子の声が聞こえ、真乃は足を止めて振り返った。
「突然すいません、私、あなたのことを知っている気がして、つい声をかけてしまいました」藍子は戸惑いながらも、真乃から視線を離そうとしなかった。
「実は私もあなたに似た女性を知っているんです。正義感が強くて優しくて、とても素敵な女性なんです」真乃は必死に泣くのを堪えて笑顔で答えた。
「でも、人違いだと思います」そう言って、真乃は藍子に背を向けて再び歩き始めた。
「だったら、私と友達になってくれませんか?」
藍子の友人達は何が起きているのかわからず、呆然と立ち尽くしていた。
「ええ、喜んで。実は私もあなたの友達になりたかったんです」
真乃は止めどなく溢れる涙を手の甲で隠しながら、照れ笑いを浮かべ、藍子もなぜか泣きながら笑みを浮かべていた。
✦
真乃の部屋には写真立てが置かれていた。
水瀬家で撮った写真には、蓮の家族と玲奈、玲奈の旦那さん、そして真乃はレオを抱いている。
「お姉ちゃん、この人たちはお姉ちゃんのお友達?」
茉莉から尋ねられ、真乃は静かに頷いた。
「お友達よりも、もっと大切な人たちだよ」真乃は優しく茉莉の頭を撫でた。
「茉莉も会いたい!」
「そっか、茉莉も会いたいよね」
「うん、会いたい!」
✦
茉莉は机の上の写真立てを嬉しそうに眺めていた
ピースサインをする藍子の横に蓮が立ち、茉莉の方に手を置いた真乃が微笑んでいる。
「ねえ、お兄ちゃんはお姉ちゃんと結婚するの?」
写真を撮ったとき、茉莉は蓮にそう尋ねた。
「そうできるように頑張る。だから応援してね、茉莉ちゃん」
「え、蓮さんには視えていないんですか?私と蓮さんが幸せな家庭を築いている様子を」
「真乃ちゃん、意地悪しないでよ」
真乃はそう言ってクスクス笑い、蓮は困ったように髪を掻いた。
✦
月日は流れる。どの世界線にいても時間は関係なく進む。
スーツ姿がさまになった蓮は、ある晩、同棲している真乃に背後から声をかけた。
「真乃ちゃん、聞いて欲しいことがあるんだ」
「どうしたんですか?そんなに畏まって」
「俺は、俺は君を幸せにするために産まれてきた。今なら確信をもって言える。どうか俺と結婚してください」蓮の差し出した手は小刻みに震えていた。
「蓮さん、ありがとうございます。嬉しいです!未来なんてどうでもいいんです!私たちなら、どんな困難でも手をあわせて乗り越えることができます」
そう言って、真乃ははち切れんばかりの笑顔で蓮に抱き着いた。
未来は変わる。変えることができる。
だが、人間の叡智の及ばない。神さまの気まぐれのようなものだ。
だが、蓮と真乃は未来が輝かしいものになると信じて疑わなかった。
そして、何があっても乗り越えることができる。
蓮は真乃を抱き締めながら、「ありがとう。君を必ず幸せにするから」と何度も、何度も呟いた。
完
向いに引っ越してきた女子高生は、どうやら未来が視えるようです モナクマ @monakuma
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