向いに引っ越してきた女子高生は、どうやら未来が視えるようです
モナクマ
CASE 春、出会い
第1話 カーテンの向こうにいる少女
「ふあああー」は大欠伸をしながら、部屋のカーテンを開けた。
今年もまた大学生か・・・
授業についていけない、テストは散々な結果で単位を落とす。
一浪した蓮は記念のつもりで偏差値が高い有名大学を受験した。落ちて当然。金の無駄使い。しかし、なぜか合格していた。いや、してしまった。
その名を東条大学。名門6大学には及ばないが、充分に名の知れた大学だ。
宝くじに運よく当たったようなもので、連は自分の実力でないことをよく知っていた。しかし、就職のことを考えれば、良い大学に進学したほうが結果を出し易いはずだ。
自分の身の丈にあった大学にも合格していたが、蓮は思い切って東条大学に進学を決めた。
しかし、実力ではなく運で入学した大学の授業は想像して以上に難しく、蓮の学力では予習をしてもついていくのがやっとだった。
1年生の時はそれなりの名の知れた大学に進んだせいで、連は浮かれてろくに勉強をしなかった。
2年生のときに危機感を抱いたが、もはや時すでに遅し。空き缶を捨てるようにポイポイと単位を投げ落とし、留年してしまう可能性は宝くじの1等に当選するのと同じくらい難しく、もはや絶望的だった。
「あーあ、こんなことなら、違う大学にすれば良かった」
ブツブツと呟きながら、煙草を手に取って玄関を開ける。本日も晴天なり。雨が降るよりは幾分かマシだが、天気が良いからと言って連の気持ちが晴れるわけではなかった。
蓮の自宅は2階建てで、住宅がそれなりに密集した場所にある。
玄関を開けると、真向いに2階建ての集合住宅があり、2階と1階の左側面に設置された正方形の窓が嫌でも目に入る。
ただ、上も下も入居者がおらず、いつも窓にはシャッターが下りていた。
いつもと変わらない景色。連は火を煙草に火を点けるとストレッチを始めた。
1,2、3,4、屈伸をしてから伸びをする。咥え煙草ですることではないが、これは蓮の日課になっていた。
ふと、視線を感じて運動を止める。
「あれ?」珍しく真向いにある1階の窓のシャッターがあがっている。窓には白いレースのカーテンがかけられていて春風で揺らいでいる。
「誰か引っ越してきたのか?」独り事を呟き、もう一度ストレッチを始めようとしたが、やはり視線を感じる。
連は「だるまさんが転んだ」をするように体を動かしては突然止めて辺りを見回した。
いる、間違いなく自分を見ている人間がいる。
連は1階の窓に向かって少しだけ歩を進めると、白いカーテンが不自然に動いた。
「まさか幽霊じゃないよな?」
朝の8時に幽霊から監視されるなんて気味が悪い。蓮はおそるおそる、窓に近づいた。
光の反射で人影が見える。やはり、あそこだ。蓮は意を決して窓に近づいた。ゆっくりと、ゆっくりと泥棒が入るように近づく。
そのとき、大きな風が吹き、カーテンが大きく左右に揺れた。
やっと見つけた。連のことを見ていた犯人が。
「あ、ど、どうも」カーテンの隙間から胸に可愛らしい赤色のリボンを付けた制服姿の少女が、オドオドしながら連に挨拶をしてきた。
見たことのない女の子だが・・・可愛い。
セミロングの髪は少しだけ茶色で、大きな瞳が印象的な女子高生が、なぜか連のストレッチを見ていたようだ。
「えーと、新しく引っ越してきた人なのかな?」
連の問いかけに少女は無言で頷いた。制服には見覚えがあった。可愛らしいデザインをしていて人気があり、蓮の記憶では偏差値の高い女子高だったはずだ。
連としては挨拶をしたいのだが、少女はそう思っていないのか、カーテンで顔を隠してしまっている。
しかし、魅力的な少女だ。蓮には物憂げの表情が彼女を一層引き立てているような気がした。笑顔はもちろん似合うはずだが、寂し気な表情まで絵になる。
「あの・・・何か私の顔についていますか?」つい見入ってしまった。少女は確認するように頬に手をあてている。
「いや、違うんだ。あ、ごめんね。ちょっと強引すぎた」
蓮は後退りして少女から離れようとすると「待ってください」と呼びかけられたので、その場に留まった。
「な、何かな?」上手く言葉が出てこない。ご近所付き合いしたいのか、それともしたくないのか、蓮には判断がつかなかった。
「水瀬さんですよね。すいません、勝手に家の表札を見てしまって・・・」
「別にいいよ。引っ越してきたばかりだろうから、色々気になったでしょ?」
コク、コク、少女は頷いて返事をした。
このまま話していても進展はなさそうだし、何より気まずい。
「じゃ、じゃあ」少女に背を向けて家に戻ろうとすると「あの、水瀬さん、お金には気を付けたほうが良いです」と声をかけられ、連は急いで振り返ったのだが、すでに窓は締まっていた。
可愛いけれど変な女子高生だ。人見知りなのか、それとも蓮のことが怖いからなのかはわからないが、これではコミュニケーションがとれない。
「お金に注意って何だよ?」
訝し気に閉められてしまった窓に視線を送るが、窓が開く気配はない。
「あ、やばい、急がないと」
腕時計はしていないが、だいぶ時間を食ってしまった。もう留年はできない。もしもう一度留年をしたら、蓮がアルバイトで稼いで学費を払うように両親からきつく言われている。
蓮は急いで着替えを終えると、栄養補助ゼリーを飲みながら駅へと急いだ。
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