【065】母と娘になりきれない二人が、ただまっすぐに親子を生きる物語。

極度の人間嫌いである主人公のもとに、たったひとりの友人から「しばらく娘を預かって」と小学生の女の子が連れてこられるところから物語は始まる。


気楽なおひとりさま生活から一転、慣れないどころか未知の存在である小学生女子とのふたりきりの生活に戸惑う主人公。それも当然のことで、親になる覚悟もなにもない彼女(それも人間嫌いの)がいきなりママ友だとかPTAなんかに馴染んでいけるはずがない。

読者である私も、最初は彼女と同じように、無責任な友人への怒りを感じたものだ。


しかしどうだろう。

物語が進むにつれ、ぎこちなかった二人の関係は少しずつ変わっていく。

同時に、女の子の抱える問題や、実の親である友人の思惑が明らかになっていく。

このバランスがとにかく絶妙だ。主人公の、思考をだらだらと垂れ流すような語り口も相まって、知らないはずの感情を呼び起こされる感覚もなかなか得難いもの。


二人は決して血の繋がった母娘ではない。

二人が心に持つ闇も、珍しいというほどのものではないだろう。

それでも互いがひたむきに生きることで掴んだラストは素晴らしく、温かい。

是非、その目で確かめていただきたい作品である。

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