【030】重苦しい感情描写で突きつけるドルオタの存在理由

 人気絶頂のアイドルが総選挙の壇上で突如繰り出した「結婚宣言」。世間を震撼させた衝撃から一年、かつて彼女のTOトップオタを自認していた独身男はある日、自身が店長を務めるコンビニで、忘れ得ぬその面影を目にする……。

 あらすじから誰もがピンと来るように、当時世間を騒がせた「結婚宣言」の一件をオマージュしつつ、純文学を思わせる重厚な筆致で、アイドルという存在に恋し裏切られてしまったオタクの心情をありありと語った力作。

 アイドルの熱愛報道が出るたび、ネットの住人達は「お前ら俺達が金を払って数秒の握手に勤しむ一方で、タダでそのアイドルと関係してる奴がいる」と醜く傷を舐め合うものだが、本作の独白もまさにそうした虚しさに満ちており、「我々は何のためにアイドルを推すのか?」という原点の問いを震える胸に突きつけてくる。

「無垢なる偶像」の幻想と「生身の人間」の現実が同居する、アイドルという存在。いつか己のものではなくなってしまう、いや本当は最初から己のものなどではない彼女達を、人はなぜリアルの充実を投げ打ってまで推し続けるのか。本作が重苦しい感情描写を通じて突きつけてくるのは、ドルオタの存在理由レゾンデートルを脅かす禁断の問いなのである。

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