【027】これは供養の物語ではない。彼女は今も「生きている」のだから。

 冥婚、即ち死者との婚姻というテーマから多くの人が思い浮かべるのは、ほの暗くおどろおどろしい伝奇物の空気だろう。それと令和のネット恋愛という異色の取り合わせからは、当節流行りの電脳系ホラーを連想する人もいるかもしれない。

 しかし、この短編を貫くものは、どこまでも明るく爽やかな「純愛」のロマンだ。

 SNS越しに夢を語らい、互いを励ましあったという“彼女”と、男は遂に生きて顔を合わせることすらない。それでも男は、それまでの生活を捨てて都会を離れ、“彼女”の親に望まれるがまま、島の旧い風習に則って“彼女”を生涯の伴侶とする。ともすれば異常とも思える人生でありながら、“彼女”への想いを若き編集者に語る男の横顔には、一片のかげりも感じられない。情欲と真に無縁なこの契りこそ、究極の愛の形なのだと言わんばかりに。

 “彼女”に代わって筆を執る彼の姿を、編集者は「亡き妻が乗り移ったかのよう」と言うが、恐らくはその表現すら正鵠せいこくを射てはいないのだろう。二人の関係を供養と呼ぶのはきっと正しくない。“彼女”は今も、彼の隣で生き続けているのだから。

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