第2話 スタート
「開会式を行います。チームごとに整列しなさい」
帝王寺高校顧問の中田先生が声を上げる。相変わらずファッションはヤンキーっぽいジャージだが、口調は幾分真面目っぽい。
「それではこれより『大阪高校春季オリエンテーリング大会』兼『全国高校オリエンテーリング大会予選』を行います」
「「「お願いします!」」」
大阪大会としては上位三校までが表彰される。全国大会には大阪を代表する一校のみが出場できる。つまり、当たり前だけれど全国を目指すのであればナンバーワンを取らないといけない。というような、この大会の位置づけが説明される。
たとえば野球やサッカー、バスケなどのメジャースポーツと比べれば、そもそも参加しているチーム数が少ないので、そういう点で全国へのハードルは比較的高くない。しかしここにいる人たちは本気も本気、大真面目に全国を狙って集合していることが空気として伝わってくる。野球で甲子園を目指すのと同じくらい真剣に、ここにいる。
「ポイントは四つ設置しました。それを①から④まで順番に回ってもらいます。④を通過したら、このスタート地点に戻ってきて、バトンタッチ。次の走者が同じルートを通ります」
続いて、今日はジャージ姿の本田先生がルールの説明をはじめる。
「いわゆる駅伝タイプではないということですね」
燐先輩があたしの後ろから小声で補足する。同じルートを通るということは、葉っぱが一枚のクローバーというイメージだ。
「同じポイントを通るので、走り終えた者が次のチームメイトに助言する、といった行為はルール違反とみなします」
一同がうなずく。先生はそれを見て、地図とカードを取り出す。
「地図と電子パンチ用のEカードをバトン代わりとします。第一走者はこの地図でもってポイントを通過してここに戻ってくる。そして地図とカードを第二走者に渡す。それを四人分繰り返します」
先生はそう言って、鞄から次はタブレットを取り出す。古文教師とハイテク機器って、なんだかアンバランス。
「時間は私が管理します。一人あたりの目安時間は四十五分で設定しています。一時間を過ぎても帰ってこなかった場合、そこでそのチームは失格です。安全のために顧問の先生方による捜索隊が出ます」
制限時間を過ぎてチームが失格となり、さらに顧問の先生方にもご迷惑をかけると思うとゾッとする。その人にだけはならないよう注意しないと……。
「基本的にはチームの合計タイムがより短いチームの勝ちとなりますが、ポイントを発見できなかった場合は、一つのポイントにつき十分を加算します」
一時間を超えて失格になるくらいなら、見つからないポイントを捨てて帰ってくるのも一つの手なのかもしれない。考えるべきことがたくさんあってドキドキする。
「それでは、午前十時ちょうどに始めます。それまでに各チームの代表者は走順を決めて報告しに来なさい」
ここで開会式はひとまず終了。チームごとに作戦会議が行われる。
「順番はな、もう決めてあんねん」
卓美先輩が紙をひらひらとふる。
『第一走者:
第二走者:
第三走者:
第四走者:
「ふええ、なんでまたあたしがアンカーなんですかぁ?」
あたしが悲鳴に近い声を上げる。
「しっ、静かに。まわりにバレんようにあらかじめ書いてきたんやから」
「す、すいません……」
「オレら三人がちゃんと他の連中に差をつけてバトンを回したるっちゅう作戦や。どこの学校もアンカーに部長クラスを持ってくるやろうから、その裏をかく。熱い展開やろ?」
卓美先輩は喜び勇んであたしの首に腕を回す。
「な、何が熱いんです?」
あたしの体温も今上昇しているけど。
「二年生三人が一年生一人のために、できるだけ早くバトンをつなぐ。一年生はそれを受け取ってゴールを目指す――激熱やん」
卓美先輩があたしの頭上でワイルドに笑う。いやいやそれ模擬戦でもやったじゃん。
「みんなは一人のために、一人はみんなのために」
「ワンフォーオール、オールフォーワン、というわけですね」
風子先輩と燐先輩。いやいやプレッシャーが半端ないんですけど……と思っているうちに、卓美先輩は有無を言わせず走順を書いた紙を提出しに行ってしまう。
「三分前になりました。第一走者は所定の位置に集まってください」
風子先輩含む各学校の第一走者が集まる。ライバル帝王寺高校四天王の方はパワー系の多々良亜門先輩。帝王寺高校は二軍三軍……正式な言い方をするとBチームCチームまであるのだが、そちらは名前を知らない人たちが並ぶ。
砂利道の上、袋に入った地図が裏返しで人数分置かれ、やがて周囲は静寂に包まれる。
「よぅい、スタートッ!」
第一走者がいっせいに走り出し、手近な地図を拾ってすばやく目を通す。コンパスで方位を合わせて最初のチェックポイントがある方向を見定める。スタートと言われてからもなかなかスタートできないあたりが、すごく地味な競技である。最初のポイントを把握した者から順に地図から顔を上げ、木立の中へ消えていった。
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