004 非存在

 胡蝶こちょう信長のぶながげる。

明日あす美濃国みののくに西武せいぶ出掛でかける。ついてくるなら、うちの秘密ひみつおしえたる。やけど、うちの領内りょうない見聞みききしたことや出来事できごとは、一切いっさい他言無用たごんむよう裏切うらぎったら、ブッころがす。どうする?」

胡蝶こちょうさそいなら、面白おもしろそうや。吉乃きつのさそってええか?」

「ええよ。吉乃きつのに、やま拾う歩くってつたえといて」


  * * *


 胡蝶こちょうはピンクのいとかみき、風呂ぶろはいさい着用ちゃくようする湯帷子ゆかたびらのようなものを羽織はおり、朱鞘しゅざや小刀こがたなしている。

胡蝶こちょう。今日は派手はで出立いでたちやな」

 信長のぶながが、胡蝶こちょうをまじまじと見る。

供回ともまわりを付けへんで、遠目とおめに、うちやとわからんと無礼討ぶれいうちにって、ブッころがされるでね」

 供回ともまわりとは、従者じゅうしゃ一群いちぐん通常つうじょうは、家臣かしんらをれて移動いどうする。


  * * *


 胡蝶こちょう先頭せんとうに、信長のぶなが生駒吉乃いこまきつの三人さんにんは、関ケ原せきがはら山奥やまおくに来た。

「オッケー。六兵衛ろくべえ。電気をつけて!」

 胡蝶こちょう大声おおごえさけんだは、史実しじつ存在そんざいしない人物じんぶつ


 胡蝶こちょうこえ呼応こおうするように、周囲しゅうい一斉いっせいかりがともる。信長のぶなが周囲しゅうい見回みまわす。

胡蝶こちょう、なんやこれは!? 六兵衛ろくべえ一体いったい何者なにものや?」

 唯一ゆいいつ浜六兵衛はまろくべえしるされているのは、岩手明泉寺記録イワテみょうせんじきろく。一五五五年までの玉城主たまじょうしゅとしてしるされている。

 そして、二〇二三年時点じてんでは、すべてが不明ふめいとされている。


六兵衛ろくべえは、玉城たまじょう管理かんりしてくれとる、おじいさんやお」

 ともったかりにらされる城壁じょうへき

玉城たまじょう? 初耳はつみみや! こんな巨大きょだいしろらん!」

 玉城たまじょうも、二〇二三年時点じてんで、すべてが不明ふめいまぼろししろとされている。

「やろうね。普段ふだん、ここにはなにもあらへん。蔵之介くらのすけ! 説明せつめいしたって」

 蔵之介くらのすけは、竹中半兵衛たけなかはんべえ叔父おじとされている人物じんぶつ。一五五五年に六兵衛ろくべえから、玉城主たまじょうしゅぐことになる、杉山内蔵之介すぎやまうちくらのすけ


 蔵之介くらのすけは、信長のぶなが玉城たまじょう時間軸じかんじく移動いどう出来ると説明せつめいする。

 吉乃きつのは、かりに興味津々きょうみしんしん六兵衛ろくべえたのしげにはなしている。


  * * *


 ふかまり、周囲しゅういやみまる。

「そろそろ、ええ頃合ころあいや。ええもんせたる」

 未来みらい時間軸じかんじく、二〇二三年に移動いどうし、玉城たまじょうから三人さんにん泰平たいへいの、ささやかな夜景やけいを見た。

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