第2章 乱破

201 Conti殲滅

「うちに宣戦布告せんせんふこくしてきた阿呆あほうは、Contiコンティ乱波らっぱ。初攻撃を観測したのは二〇二〇年五月。以降、標的ひょうてき限定げんていせんと無差別むさべつ攻撃をり返しとる。冷酷れいこく凶悪きょうあく組織そしき。攻撃の手口てぐちは、情報を暗号化あんごうかして、復号ふくごうしたかったら身代金みのしろきん支払しはらえって要求ようきゅうする。従わへん場合は、情報を流出りゅうしゅつさせるって、二重にじゅう脅迫きょうはくをしてくる」

 吉乃きつのまで、阿呆あほうという言葉ことばもちいたことにおどろいた。胡蝶の言葉遣ことばづかいは、何らかの意図いとがあって乱暴らんぼうということではないようだ。


 乱波らっぱとは、現代げんだい忍者にんじゃ呼称こしょうされている存在そんざい。他国に忍びみ、夜討ようちをしたり、盗賊団とうぞくだん仕向しむける暗躍者あんやくしゃ


 史料しりょうによると、織田信長と乱波らっぱの縁は深い。戦国時代せんごくじだい数々かずかず番狂ばんくるわせの裏には、乱波らっぱの働きがある。

 信長が尾張おわり完全統一かんぜんとういつし、畿内制圧きないせいあつへと台頭たいとうするきっかけとなった、桶狭間おけはざまの戦い。

 兵力へいりょくにおいて、信長側が圧倒的あっとうてき不利ふりだったこのいくさで、今川義元よしもとの首を取った毛利新助しんすけよりも、功績こうせきが大きいと評価ひょうかされ、沓掛城主くつかけじょうしゅとなったのが簗田やなだ 政綱まさつな。今川義元よしもと本陣ほんじん場所ばしょを信長に伝えたり、ひそかにへいを動かす等、裏工作うらこうさく主導しゅどうした。

 信長は乱波らっぱを高く評価ひょうかし、重用ちょうようしていた。


 ただ、間者かんじゃ素破すっぱは、報酬ほうしゅう次第しだいで、いつ寝返るかわからない根無ねなぐさ。まさに諸刃もろはつるぎ

 そこで、商人たちの情報網じょうほうもうを活用するため、経済政策けいざいせいさくとして楽市楽座らくいちらくざ実施じっしし、商人を味方みかたにつけた。武家商人ぶけしょうにんとして飛騨国から三河国までの広範囲こうはんいあきないをし、諸国しょこくから多数たすう人間にんげん出入でいりする吉乃きつの実家じっか生駒家いこまけ重要じゅうよう拠点きょてんであることは言うまでもない。


――― 資料はじめ


 二〇二一年四月。

 全身代金要求プログラムランサムウェア被害ひがいの二五%をContiコンティ乱波らっぱが占める。

 被害数が全乱波らっぱの中で最多になった。


 二〇二二年二月二四日。

 ルシア帝国がエクライネ共和国に軍事侵攻ぐんじしんこう開始かいし


 二〇二二年二月二五日。

 Contiコンティ乱波らっぱがルシア帝国を全面的ぜんめんてき支持しじすると表明ひょうめい

 声明文せいめいぶんは『どのような組織そしきであろうと、ルシア帝国に対しサイバー攻撃こうげき戦争行為せんそうこうい仕掛しかけるのであれば、我々われわれは持てるリソースすべてをもちい、敵対勢力せいりょく重要じゅうようインフラに対して反撃はんげきくわえる』というもの。


――― 資料おわり


 金銭きんせん目的もくてき範疇はんちゅうあきらかにえている。尋問じんもん常套句じょうとうくだれがねだ?』とたずねるまでもなく、ルシア帝国にぞくしていると、自白じはくしている。それだけではない。

実質的じっしつてきに、Contiコンティ乱波らっぱはルシア帝国そのものって宣言せんげんしとるやん」

「となると、僕らに宣戦布告してきたのは、ルシア帝国ということになりますね」

 乱波らっぱだけの問題もんだいではなく、すべてのルシア帝国民を攻撃対象こうげきたいしょうとすることを意味する。

 国家こっか相手あいてにする以上いじょう不本意ふほんいであっても、あまかんがえをてなければ破滅はめついたる。

「そういうこと。これから始めるのはくにとの戦争せんそう。移動先の日付は二〇二二年二月二五日。うちらはエクライネ共和国側に付く」

 話が淡々たんたん進行しんこうする。帰蝶きちょう異論いろんは無いけれど、まさかルシア帝国と戦うことになるとは予想だにしていなかった。呆気あっけに取られ、言葉にまる。


 二〇二二年二月二七日。

 Contiコンティ乱波らっぱ構成員同士の会話履歴ログと、身代金要求プログラムランサムウェア設計図ソースコード、およびXMPPサーバ秘密基地から抜き出した六万件以上の内部情報をリーク。

 会話履歴ログは二〇二一年一月二一日から二〇二二年二月二七日のもの。まさにContiコンティ乱波らっぱの犯罪に関する情報の宝庫。関連組織や攻撃手法、BTCビットコインの流れが含まれる。

 翌日には、二〇二〇年六月以降の一〇万件以上の内部情報を追加でリーク。より詳細しょうさいなデータを流出りゅうしゅつさせ続けた。


 表向きの目的は、Doxingドキシングによる内部分裂の誘発ゆうはつDoxingドキシングとは、さらし上げることで精神的せいしんてきダメージを与える行為こうい。いじめに、よくもちいられる手法しゅほう

 リークした会話履歴ログは、犯罪の証拠。公開こうかいすることで、捕まるかもしれない恐怖心きょうふしんあおることが出来る。

 とはいえ、真の目的はそんなことではない。

 ここから先は、防衛担当である帰蝶きちょうの力の見せどころ。設計図ソースコード改変かいへん着手ちゃくしゅContiコンティ乱波らっぱにとって、されたくないことが起きるよう手を加える。

Contiコンティ乱波らっぱ問答無用もんどうむように攻撃するのに、ルシア帝国支持しじ宣言せんげんするよりも前から、ルシア帝国内への攻撃をきんじとる。設計図ソースコードも、ルシア帝国内へ攻撃しんようになっとる。無差別むさべつ攻撃するやつらが避ける理由は、保身ほしんやろうね。攻撃したら、マズイってこと。おそらくルシア帝国内の組織を標的ひょうてきにしん限り、司法当局しほうとうきょくが取り締まらへん、暗黙あんもくのルールでもあるんやろうね。つまり、このルールを反故ほごにしてやれば謀反人むほんにんが出来上がるってわけ。構成員情報はリーク済みやで、帝国さんが始末しまつするやろ」

 設計図ソースコードえ、ルシア帝国以外を攻撃こうげきしないように変更。

 身代金みのしろきん要求文を『現状のせきを負うべき、非難対象ひなんたいしょうを探しているのならば、それはプリン皇帝こうていより他に居ません』に変更。

 検知けんちされにくくし、暗号化能力を向上させた上でContiコンティ乱波らっぱ復号化ふくごうか機能を利用出来ないよう変更。

 元のコードを六六%残し、ウイルス対策たいさくベンダーがContiコンティ乱波らっぱと認識するよう調整。


 ルシア帝国への攻撃専用、Contiコンティ乱波らっぱ身代金要求プログラムランサムウェアが出来上がった。

「狙いはルシア帝国政府に、Contiコンティ乱波らっぱ謀反むほんによる被害ひがいが多発しとるって、認識させること。更にContiコンティ乱波らっぱがプリン皇帝を侮辱ぶじょくし、ルシア帝国を混乱におとしいれる目的で、復号ふくごう拒否きょひしとる事実を作る。裏切者うらぎりものが発生しる状況にいたらせるため、Doxingドキシングが効力を発揮はっきする感じに仕上げた。自分自身にほろぼされる気分、存分ぞんぶんに味わうとええわ」


――― 作戦はじめ


 二〇二二年三月末。

 ルシア帝国への身代金要求プログラムランサムウェア攻撃開始。


 二〇二二年四月。

 ルシア帝国政府に対しDoxingドキシングを仕掛ける。

 取得した、以下国家機密こっかきみつ情報をリーク。


・国内マスメディアの監視かんし統制とうせい検閲けんえつ責任せきにんロスコムナゾール執行機関のファイル三六万点以上

VGTRK国営放送局の過去二〇年分のメール九〇万通以上

・文化省のメール二三万通

・教育省のメール二五万通


 二〇二二年五月一九日。

 Contiコンティ乱波らっぱ消滅しょうめつ


――― 作戦おわり


 宣戦布告せんせんふこくしてきたContiコンティ乱波らっぱ消滅しょうめつしたことにより、四人は目的を達成たっせい帰蝶きちょう初陣ういじんは、勝利しょうりにてまくを閉じる。

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