第8話 儀式を終えて

歓声が薄れていき観客は帰宅する。

その中でも小さな女の子が俺を訪ねた。



「お兄ちゃん、頑張ってね!」



その言葉を聞いて、

応援してくれる人がいる事実を知り、

精一杯頑張ろうと思える。



「応援してくれてありがとう!」



「うん!ばいばーい」



そう言って満面の笑顔を向けて女の子は、

母親の元に走り出す。

光のように輝く笑顔だった。


そして更に俺の元に鑑定士が声をかける。



「不明スキルの研究機関だが、

 魔法学園に進学すると良い」



予想外の単語が出てきた。

俺だけではなく父上やアリスも驚く。

俺が剣術に固執してきたのを見ていたからだろう。



「魔法学園で不明スキルを研究している!

 其方の役にも立つだろう」



「それでは私は、

 剣の道には進めなくなるのでしょうか?」



剣術スキルが出なかったとはいえ、

すぐに剣術を捨てる事は出来ない。

俺の気持ちを察したのか鑑定士が口を開いた。



「其方の資質は剣術、魔法なのか不明だ。

 そのため魔法学園で魔法を学んで、

 剣術に関しては自ら鍛えると良い」



「ありがとうございます!

 父とも相談して決めて参ります」



そう伝えると、

鑑定士は笑顔で歩き始めた。

無能力者の場合突き放す場合もあるが、

今回は最後まで親切に接してくれた。


そして俺は王女2人の元へ、

挨拶のために向かう。



「今日は会場にお越し頂き、

 ありがとうございました」



王女達に話しかけると、

2人とも薄らと目が赤く腫れているように見える。



「とっても素晴らしい剣舞でしたよ!

 思わず見惚れてしまいました……」



マリアも俺の剣舞を讃えてくれる。



「べ、別に感動とかしたわけじゃ……

 ないんだからね!」



シャルロットが慌てて目を擦りながら言い訳をした。



「クリスさんなら絶対大丈夫。

 これだけ誠実に向き合っているのですから!」



マリアもじっと見つめてきて、

こちらも照れ臭くなる。



「お兄様なら当然です」



アリスまで被せてきた。



「レガードの家に恥じぬよう、

 皆様に貢献できるよう頑張ります」



俺が2人に締めの言葉を言い、

挨拶も終えたところでマリアが口を開く。



「ところで私を救ってくださった、

 お礼ですが何が宜しいですか?」



「お礼だなんてそんな……

 お会いできただけで幸せです」



「それは絶対ダメです!

 あなたは生死を彷徨ったのです。

 お礼は受け取って然るべきです」



マリアは絶対に引かない様子だ。

流石にここでは言い返せない。

不敬にあたるからだ。

俺がしばらく悩んでいると、

先程の鑑定士の言葉を思い出す。



「あのそれでは魔法を、

 教えてもらえないでしょうか?」



俺は魔法については素人も同然だ。

休憩が魔法に関係する可能性がある為、

魔法を学ばなければならない。

そして魔法の家庭教師を紹介してもらおうと考えた。

しかし言葉というのは誤解を招く。



「お、お前、それはマリアに、

 魔法を師事したいということか?」



シャルロットが盛大に誤解したのである。



「わ、わ、私ですか?」



いきなりマリアが慌て始めた。

予想外すぎる要望だったのだろう。

お礼と言えば金銭やら武器、宝石だ。



「いや、いや王女様にお願いするなんて……

 申し訳ないです。」



俺のフォローが悪かったのかもしれない。

このように言い返すと当然反論してくる。



「嫌だなんてそんなことありません!

 むしろ私が教えたいくらいです」



マリアが頬を赤くしながら答えた。




う、嘘でしょ……

これはマリア様が家庭教師になるの?



「でも、王女様が魔法の先生というのは、

 お許しがでるのでしょうか?」



素直にそう思っているのだ。

この場に居合わせる全員が思っている。

父上やアリス、使用人たちは開いた口が塞がらない。



「私たちは王族だが仕事も許されている。

 そのため今回も許可されるだろうな」



シャルロットは騎士団での隊長、

マリアは治療の仕事もしているのだ。

お礼としての先生は、経費もかからない。

本当に許可されてしまうかもしれない。



「そ、それにクリスさんは命の恩人です。

 私自身が恩返ししたいのです」



マリアは頬を染めながら言い切った。



これは引き返せないところに来てしまった。

俺は運が良いのか悪いのか、

それとも口が災いを生む運命なのか……



「よ、宜しくお願い致します」



俺も腹を決めてマリアへ挨拶をする。

予想の斜め上の展開になってしまい、

思考が追いつかない。



「ま、まさかクリスの要望が、

 マリアへの師事だとはね……」



シャルロットが睨みつけてきたが、

それに対して愛想笑いするしかない。



「ひとまず魔法学園に入学するまで、

 基本魔法は使えた方が良いので

 定期的に王都に来てもらいますね」



マリアは、そのように口にした。

今は10月に入ったくらいだ。

あと半年で俺は魔法学園に転入するのだ。

それまでの間は剣術学園に通いながら、

マリアに師事する予定となる。



「はい!魔法に関しては素人ですが、

 精一杯頑張っていきます。

 宜しくお願い致します」



そして俺に魔法の先生が出来ました。

それも第二王女にして聖女、

歴代最高の回復魔法使いマリア・ルミナス。

歴史上でも超一流の魔法使いになるのは間違いない。

その事実に俺は驚愕している。

同じように思う人はこの場に多いはずだ。

なぜなら父上、アリス、使用人たちの表情が物語っている……

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