第5話 アリス・レガード

幼く可愛い声が聞こえる。

肩の痛みに耐えて起き上がると、

その声を放つ人物が目に入った。



「おはようございます、お兄様」



「おはよう、アリス

 昨日は心配かけたな」



アリス・レガード、俺の双子の妹だ。

恐らくアリスは、寝ずに看病していたのだろう。



「お兄様、肩は痛みますか?」



「大丈夫だよ、アリス。

 俺はレガード家の長男だぞ!

 父上にも厳しく鍛えられてるんだ」



「お兄様、良かった……

 良かったよ~」



号泣する妹、鼻水が出ている。

双子なのでかなりの美少女だと思うが、

とても酷い顔をしている。

こんな顔を見たら騎士学園の生徒も引くだろう。



「父上は?」



「今日はスキルの儀式なので、

 先に会場に向かわれてます」



迎えに来て欲しかったが、

レガード家も貴族同士の付き合いがある。

そのため父上は先に会場に向かった。



「父上、大丈夫かな……」



今日は王女二人が応援に来ることになった。

いつも冷静で威厳のある父上だが、

まさかの事態に動揺するかもしれない。



そして俺達は儀式会場である、

教会の中央広場に向かった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




会場に着くと既に王女達も到着していた。

次期女王候補筆頭であるシャルロット、

史上最高レベルの回復魔法を持つ聖女マリア、

二人の王女を王国騎士団で囲い守っている。

特に人気の王女二人を見ようと野次馬も多い。



「うわ……

 なんだ、この人だかり」



じょ、冗談だろ。

こんなに集まるなんて聞いてない……



鑑定の儀式は家族、親戚内で取り行われる。

せいぜい多くても十人くらいだ。

しかしどう見積もっても二百人以上集まっている。



アリスを見てみると顔が真っ青だ。

今日のこの観衆の多さに引いている。



「何故こんなに大勢になったのでしょうか」



小動物のようにガクガク震えながら.

アリスが呟いた。



「王女達のせいに決まっているだろ……

 あの二人、この国のアイドルだぞ」



少し考えれば昨日二人が来ると言った時、

この状況を予想出来たはずだ。



「これ、まともなスキル出なかったら、

 父上に殺されるな」



こんなことなら昨日猛反対すべきだった。

大勢の前で変なスキルが出たら赤っ恥だ。

公開処刑なんてもんじゃない。



すると遠くから俺達を呼ぶ声が聞こえてきた。



「おーい、クリス!アリス!

 こっちに来るんだ!」



シャルロットが大声で俺たちを呼ぶ。

お構いなしである。

ひとまず引き攣った笑みを浮かべながら、

アリスと共に会場に向かう。

すると父上がふと視界に入った。

かつて見たこともない程に顔色が悪い。



「お、おはようございます!

 シャルロット殿下、マリア殿下。

 遅れてしまって申し訳ありません」 



「いえいえ、クリスは命の恩人。

 怪我が治るまで待つのは当然ですよ」



マリアはそのように言うが、

冷静に考えると殆どシャルロットが原因だ。

そこは声を大にして言いたい。



「ま、まあ治ったなら良かったわね!

 ひとまずみんなが待っているから、

 こっちで儀式受けましよう!」



少し居た堪れなくなったシャルロット。

ひとまず早く儀式に促したいようだ。




ついに来てしまった……

スキル鑑定の儀式。

これからスキルを取得する。

そう思うと胸騒ぎがしてきた。




そしてこの時の俺は、

剣術スキルの獲得だけに命を注いできた。

儀式で獲得したスキルに落胆するが、

将来、獲得したスキルに感謝する事になる。

人生を変えるチートスキルに……

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