第2話 マリア・ルミナス

俺は、女の子の後を追って路地裏に走り出した。

到着すると男二人に囲まれるのが見える。



「もう逃げられないぞ……

 大人しく捕まるんだな」



男は嫌らしい笑みを浮かべながら口を開く。

最近、子供を狙った誘拐が流行っていると聞いた。

身なりからしても盗賊の可能性が高く、

当然だが12歳の子供が敵う相手ではない。



しかし身体が勝手に動いてしまい、

俺は盗賊に向かって大きな声をあげた。



「うわーーー!助けてーー!

 変なおじさんに拐われる~」



町中に広がるほど大きな声だ。

剣士の家系なのに情けないが仕方がない。



「何だお前!ってガキ一人か……

 馬鹿め!こいつも一緒に連れて行くぞ」



「だんな!よく見ると、

 こいつも上玉ですぜ!」



だんなと呼ばれていた男が親玉のようだ。

もし男が無能力者であれば勝てる可能性はあるが、スキル持ちであれば100%勝てない。



「私も攫うの?やめて~」



少女の真似もしてみた。

声も高い方だから効果があるかもしれない。

まさか自分が女の真似をするとは……



「へへへ、今晩お楽しみもできるな!」

 


一人の盗賊が近づいてくる。



そして俺は怖がる真似をして、しゃがむ。

男が上から覆い被さった瞬間、

股間を剣で刺すと、この世のものとは思えない悲鳴が出た。



「な、何しやがる!あいつは、

 もう男として生きていけねえぞ」



「まあ、やり過ぎたなと思ってますよ」



何とか一人目は上手く倒せたが、

ここからが本当の戦いだ。



盗賊の男は斧使いだ。

太った体格からも動きは鈍く、

斧も大振りで振り回すだろう。

打ち合ったら不利であるため、

俺が勝つには奇襲しかない。



恐らく女の子と油断している今なら、

レガード流の抜刀術で勝てる。

タイミングは奴が動き出す時だ。



そしてその時は来た……



盗賊が怪しい笑みを浮かべながら近づくが、

油断した相手は斧すら構えていない。

俺は全速力で走り相手の懐に入り剣を振る。

抜刀術は吸い込まれるように首に向かい、

確かに急所に入った手応えがあった。




「な、なんだと、小娘に……俺が」



「あいにく俺は男には興味がないんだよ」




そして盗賊は力尽き倒れる。

咄嗟の判断が功を奏して大男を倒せた。



「あの、助けてくださり、

 ありがとうございます」



フードの子から話しかけてきた。

声からしてもおそらく女の子だ。



「っ!いた!」



どうやら俺は、先ほどの戦いで足を捻ったようだ……

動こうとして尻餅をついてしまう。



「先程はありがとうございます。

 貴方がいなければ私は……

 せめてものお礼に回復させてください」



女の子は回復魔法を俺の足首にかけて、

あっという間に怪我が治る。

高レベルの回復魔法と素人でも分かるくらいに規格外な存在だ。



「俺のことは良いから、

 早くご両親のところへ帰ってあげな!」



「いえいえ!

 お礼をしなくてはならないのです。

 貴方はそれだけのことをしました!」



「俺が良いって言っているんだから、

 良いの!」



「先程から俺と言われてますけど、

 こんなにお美しいのですから、

 もっと、女性らしく……」



俺の容姿で違和感を感じたのだろう。

しかも盗賊の前で女の真似までしていた。

あれは俺の中でも最大の汚点だが、

生きていくには仕方のない選択だった。



「いや、さっきは女の子のフリしたけど、

 俺は男だよ?」



「そ、そんなわけないと思いますが……」



「いや、男です」



「え?本当ですか?」



「はい、神に誓って男です」



「えええええー!!!」



そう俺が告げると、驚き固まってしまった。

そして驚いた瞬間フードが外れ顔が見える。

この顔はどこかで見たことが……



ようやく思い出した。

さっき街の掲示板で見た、

第ニ王女で聖女のマリア・ルミナスだ。

何故こんな路地裏にいるのかと疑問に思う。

そしてこれが、俺とマリアの出会いだった。

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