世界の花はとても灰色 

大犬

プロローグ 感情の無い少年

 感情とは、なんだろう...


 季節は5月の上旬、僕が高校に上がってから約1ヶ月経つ頃だろう、高校までの通学路には桜が咲いており、まだ季節が春であることを示していた。


 4月から咲いた桜は基本的には、10日から2週間辺りで全て散り新しく桜が咲くまで準備をする。しかし、この桜は珍しいらしく通常の桜より長く咲き美しさを保っていた。春独特のにおいが香り、少し強い風が吹けばすべての桜が散ってしまいそうで弱々しく感じる。


 そのため辺りを見れば、まだ残ってる桜を珍しそうに写真に収めたり綺麗だねと話す学生達の声やこの道を通学路にしている小学生くらいの子供の声が聞こえる。

 綺麗、珍しい、そんな感想を聞いては僕は首を傾げた。


 理解ができなかった。


 僕は周りの人と同じように桜を見る。


 何か意味のあるものだと思い、桜の方へ近寄り見る。


 けれど僕は...



 ――何も思わなかった。



 何も感じなかった。綺麗とも珍しいとも、普通の人なら感じる思いも感性も何もかもが僕には足りない。


 僕はただただバックを持って自身の通う学校へと足を進める。

 僕が通う高校は家から近い普通科の高校、偏差値はそれほど高くも低くもない。周りからは、もっといい学校に行けるといわれてたが、僕には何か目指しているものもなければ、将来なんてものの希望もない。だからこの学校に通うことにした。


 話しながら歩く先輩や、朝の練習に励む運動部、挨拶をする生徒会、そんな普通の学校で生活している。アニメとかでは、特殊な部活や鮮やかな制服があるらしいがそんなものはない。

 仮にあったとしても僕には関係のないことだ。


 教室に着き1ヶ月前に決まった席へと座る。

 まだ、教室には少ししかいないクラスメイトが何かを楽しそうに話していた僕はそれを横目に本を取り出しその本を読む、題名は[カタクリの理由]というの感情を題材にした小説で感動の小説としてテレビに取り上げるほど有名だった。けれど、僕はいくら読み進めても感情という物が動かされることはなかった。僕にとって小説もただ暇をつぶす道具でしかなった。


 人数の少なかった教室に少しずつ人が多くなってきた。次から次へと教室にクラスメイトが入ってくる。


そうなれば、自然と教室はうるさくなる。


 1ヶ月という時間は案外短いらしい、教室ではクラスメイト同士での4~5人の仲良の良いグループが出来上がるには1ヶ月は十分な時間だったのだろう。そんな和気あいあいとしているこのクラスはの人にとっては楽しいクラスなのだろう。


 だけど、僕は普通じゃない。


 感情が僕にはない。


 いつから、感情がないことに気が付いたのか覚えていない。

 周りとの違和感か、周りから指摘されたのか、それすらも思い出せない。

 いや、もう思い出す必要もない。


 人と関わらない僕という存在がこの学校というコミュニケーションを取り、社会を学ぶ所であるこの場所において僕というものが異質であるように演出している。


 まるで、僕はだ。


 この学校というコミュニケーションの世界にいるうまく動かない傀儡だ。


 だから、誰とも関わらず、僕は生きる。

 それが僕の生きる理由であの日から変えてくれた。

 感情も、何もかもが欠落している僕が

 人との感情を騙って。


 あのだけは忘れないために









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