第12話 新規プロジェクト

2章 課長の変化


世界が変わり、この日常にも少しずつ世間が慣れ、街中を行く人が増えてきた。




この見た目に対するビジネスや話題も始まり、日々ニュースにもなっている。




そして、既に自分自身も感じているが、精神年齢に対する偏見やハラスメントが出てきている。




まず仕事に関してはかなり大きく響いている。

就活は勿論のこと、他社との取引などでは『信用』という面でまず外見を見られるようになった。




外見が年齢不相応という現象に慣れていないのも勿論あるだろう。




しかし精神年齢が仕事をする上で不相応であれば、自分の会社や仲間に悪影響を及ぼしかねないという懸念もあり、ビジネスパートナーとしては選ばれにくいのだ。




外交的な仕事をする人。会社内のみの仕事しか任されない人。と役割が決まってきてしまった。



それはウチの課でも例外ではない。




「飯野課長。」


課長に声をかけるもチラッとこちらを見るだけだ。


誰と取引しようとしても、あまり相手にしてもらえなくなってしまい、すっかり仕事に対するやる気が無くなってしまった様子だ。




年齢よりもかなり老け込んでしまった課長。最初にこの外見になってしまった時よりも老け込んでいる気がする。




任される仕事も激減し、最近はすっかり引きこもりになってしまい、ずっとお茶を飲みながらパソコンを眺めている。




「なんか、課長元気ないッスよねぇ。」

どうやら南も同じように感じていたらしい。




「このままじゃ老け過ぎてミイラになっちゃいますよ。実年齢は若いのに外見はミイラとか、もはやゾンビじゃないッスか。」

本当に心配してるのか、からかっているのか分からない。




「そうだなぁ。でもなんか対策しなきゃいけないよなぁ。」

俺はボソッとぼやく。こんなに年老いてしまっても、課長は課長。ウチの課のトップなのだ。



ウチの課全体の悪印象にも繋がりかねない。

なにより自分より給料をもらっておきながら、仕事をしない姿をみて腹立たしく思っている人も出てきている。

このままでは、ウチの課全体の空気が悪くなり、自分達の仕事に悪影響が出るのも時間の問題だ。




「さて、どうしたものか…。」

しかし、任せられる仕事もあまりない。

そう困っていると、




「課長は誰かに構ってもらえるのが嬉しい人だから、課長メインで何かやれるものがあると元気になるかもしれないッスけどねぇ。」

南も斜め上を向きつつ考えている。




課長メイン。なるほど…。それなら、



「そういう精神年齢が高い人向けのプロジェクトを何か始めるとか?」



なんとなく思いついた事を口にする。



「それ、良いわね。それなら課長も相手にしてもらえるし、課長の賛同が成功への鍵って事よね。」

無言で聞いていた金森も賛同する。




「課長も楽しくやってくれそうッスね!」

南が楽しそうに笑う。



なんとなく思いついた事だったが、皆の賛同は得られたようだ。



「まず企画書を作ってみるか!」



そう言って各自パソコンへ向かった。



・・・


「出来たな。」

精神年齢高めの人をターゲットにした社内向けコラムや、新規企画の発足、若見えグッズ調査など、いくつかの案を作成。




どれも課長に関連するものなので、きっと興味をもつに違いない。




さて、満を持して課長の元へ。


「飯野課長。お話が。」


そう言って近づくが、首を横に振り企画書を見ようともしない。




「また新しい改善案とかでしょ?もう、そういうのは…いいのいいの。」


そう言って、しっしっと手を振る。なかなか相手にしてもらえない事に拗ねてしまっているのか、仕事へのやる気はまるで見られない。




「いえ、今回のは今までとは全く違いますね。新規企画案です。」



そういって、先程作った企画書を提出するが見向きもしない。




「どうせ見てもさ、僕は上との橋渡しだけで、何かを決定する人じゃないんだよ。ただの通過点なんだ。」



そう言って溜め息をつく。完全に、いじけている。




「今回は課長から意見をもらえなければ進まない企画なのです。是非とも、目を通していただきたい。」





そう言って再度資料を目の前に提出する。



「僕が?」


そう言って面倒そうに資料に目を通す。

最初こそ面倒そうだったが、段々興味深そうな顔つきになる。しっかり座り直し、資料に向き合い資料を確認する。飯野課長の口角は久しぶりに斜め上に上がっている。




一通り見ると、突然ハッとした顔をして、

「で、でも!これがそんなに上手くいくわけが…そもそもこの会社に僕のような、おじいちゃんみたいな精神年齢の人なんて全然いないじゃないか。理解なんて得られるはずないだろ。」




興味がわく資料を読み、新しい企画に自分の心が動いてしまったことに気がついたのだろう。一瞬ハッとした顔をしたが、やはり拗ねたような口振りで飯野課長は言う。




ここで「そうですか。」と言って引き下がってはならない。


これは自分が楽しそうな顔をしていた事に気がつき、照れ隠ししている『拗ね』から出たセリフだ。こうも長い付き合いになると、このくらいは容易く見抜ける。むしろ分かりやすい性格でありがたい。




「少なくとも自分達は需要があると見込んで企画しております。もし課長にも賛同していただけるなら上の方へ、この企画を提出していただきたいです。」



もう一度強めにすすめる。

「上手くいかない可能性だって全然あるからな?取り敢えず出すだけ出しておくけど。」




そう言って印鑑を押し、上に進める準備をしてくれる。いつもは資料なんてなかなか目を通してくれず、印鑑の押し忘れが多いというのに、今回は拗ねたフリをしながら、すんなり了承してくれている。




よし、やる事はやった。後はこれが承認されれば事をすすめるだけだ。そう期待しつつ上からの返答を待つことにした。

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