第60話 とんでも寝相のお姫さま


意識を取り戻して、スマホを見れば時間は深夜の3時だった。

いつ寝たのかも、どこまで作業を進めたのかも、電気を消したことすら覚えすらない。


とにかく、疲れから倒れるように眠ったのだろう。


クッションがあるとはいえ、ほとんど床で寝ていたようなものだった。

痛む腰を左手で抑えながら、まるで老人のごとくベッドに手をつき立ちあがろうとして、とんでもない状況に気づいた。


「……細川、さん!?」


ベッドに、カースト№1女子が、誰もを惹きつける美少女・細川美夜が横たわっていた。

すやすやと寝息を立てる。


どうやら寝相が悪いらしく、毛布を蹴とばし、枕を無視して大の字で眠っていた。身体の半分はベッドから落ちかかっている。


服もはだけてしまっているらしかったが、掃き出し窓から零れる月の光だけではよく見えなくて、ほっとした。


毛布を掛けなおしてから、冷静になる。



……そうだ、思い出した。

一緒になって編集作業をやっていたはいいが、たしか一度休憩に入った際、電池がいきなりオフになったのだ。どちらもほとんど同時に眠気に襲われ――


「早く帰ったほうがいいよ、細川さん」

「もー、無理。そんな気力ない、だめ」

「いや、でも、タクシー呼んで……ってだめだ、俺ももう動けない」

「ベッド半分借りていい?」

「いいよ、もう半分とかじゃなくて勝手に使ってくれー、俺もう限界」


なんて、寝ぼけ頭で、俺はとんでもない会話を交わしてしまったのだった。



お、俺はなんてことを……!


いくらカップルチャンネルをやっている男女とはいえ、自宅に付き合ってもない女子を泊めるなんてことがあっていいものだろうか(反語)。

年頃の男女にあるまじき行為なのではないか、これ。


俺は一人、頭を抱えて焦る。謎に部屋を参集するうち、我知らず、声も出ていたようだ。


寝ぼけた、とんでも寝相の姫がそれで目を覚ましたらしい。


「なぁに、山名ー。やっぱりベッド半分いる?」


だが、寝起きのせいか、頭が回り切っていないらしい。

なんてふざけたことを言い出す。


おかげで冷静になった俺は、端的にツッコミを入れられた。


「いや、そんだけ全面的に占領して、よく言えたな、そのセリフ!」

「ふえ。私、全面的に占領なんか……」


やっと、自分のはしたない眠り姿勢に気付いたらしい。


「こ、これは違うの! いつもはもっと、こうお嬢様みたいに、可愛くすやすや寝てるからねっ!!」


恥ずかしさにより振り切れた美夜の叫びが、部屋にこだました。

一軒家でよかったよ、まじで。

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