第41話 あくまで風邪を引いたら困るから。

頭をぶつけないよう、しゃがんで中へと入る。


「こんなところで、どうしたの? 雨宿り?」


不思議そうにする美夜の前、俺はブレザーを脱ぐ。


シャツの中まで濡れているのは、美夜だけじゃない。俺もだった。中のシャツが雨で浮き出てしまっているが、別に俺の上半身をわざわざ見ようとする人はいないだろう。


「なっ、いきなり、な、なに!? あ、温めあう、とか、そういうこと!?」

「はぁ? なにって、ほら、ブレザー。これ、前に被せておけよ。えっと、それで色々隠せるだろうし、あと中にハンカチ入ってるから勝手に使ってくれ」


こうなったら心頭滅却して、無心になるしかない。

俺は、ブレザーを手渡しながらも、目線はドームの外。降りしきる雨に意識を集中させる。


あられもない姿になった美少女が、こんなこもり切った空間で、すぐ目の前にいるのだ。


少なくとも、去年一年間でほぼ女性耐性0(梨々子や姉を除く)になってしまった俺に、正気でいられる環境ではない。


雨で至る所が濡れたうっとうしさ含めて、安らげるはずもない場所だ。


「……山名、ブレザーいいの? 寒くない?」

「そりゃ少しはな。でも、少しだっての。匂いとかは気をつけてるつもりだけど、着たくないってなら返してくれ」

「……そう言うなら、うん、借りる」

「おう。いらなくなったら、その辺に放り投げてくれ」


こうして話すうちも、視線は逸らしっぱなしにしていた。


本音を言えば、すぐにでも立ち去りたかった。どこに意識を置いていいのか分からない。


とはいえ見捨てては帰れないから、ドームの中、美夜がいる場所からもっとも遠くになる場所まで離れていようとしたら…………、美夜が俺の手を引く。


振り返ると、三角座りの美夜は、俺のブレザーを膝にかけた状態で、その右袖だけを持ち上げた。


「寒いなら、ほら、少しここで休んでいこうよ」

「えっと」

「ほーら、入った入った。私だけ山名のブレザー借りて、それで山名が風邪ひいたら困るし。動画の編集とか撮影とか大変じゃん。そういうの、極力避けたい」


袖をぐいっと引かれて、バランスを崩されたこともあり、なされるがままに彼女の隣へ。


膝上にブレザーをかけてもらったと思ったら、こてんと頭を肩へ預けてくるから、ガチガチになってしまった。

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