第24話 サプライズのお手紙
学校へ行き、教室に入る。
到着したのは、始業のチャイムが鳴る10分前だ。梨々子のおかげもあり、模範的な時間に登校することができたのだけど――
「……なんだよ」
廊下から聞いているときは、外に漏れるほどの声で朝っぱらからぎゃーぎゃーと騒いでいたくせに俺が一歩踏み入れた途端、まるで水を打ったように静まり返ってしまった。
こちらを気づかわし気な目で見る者、気まずそうに目を逸らす者……。
いずれにしても、「おはよう、昨日はよく寝られたかい、親友たち!」なんて親しげに声をかけるような雰囲気でもない。
理由は、恋人の練習をすると言って、細川美夜が俺の席に座っていたあの日のことに違いなかった。
より正確には、彼女があの日発言した『それ以上、山名のことを悪く言ったらもう喋らないから』という趣旨の、あの発言のせいだ。
あれ以来というもの、彼女がいないところで、俺はその取り巻きたちからまるで腫れ物のような扱いを受けている。
……これだったら、素直に悪口を言われている方がマシなほどだぞ、まじで。
俺は複雑な思いを抱きながらも表面的には、「気にしてませんよ、素晴らしい朝をご自由におくつろぎください」という意味を込めて足早に席へと向かう。
カーテンだけではなく教科書でバリケードを作ってやろうと、ありったけの置き勉を机の上に積み上げるのだが、その一番上に見慣れないものが乗っていた。
「なにこれ、いまどき便箋……?」
桃色をしたその手紙は、間違いなく俺のものではない。
というか、こんなものを入れるような人を、俺は一人しか知らなかった。
念のため、先にスマホをチェックしてみる。
『ちゃんと見てね?』
……やっぱり、メッセージは来ていた。
とりあえず返信は保留として、俺は身体を丸め、カーテンを再度閉めなおす。
それから、手紙の封を開けた。
そこに書かれていたのは、
『お昼休み、今日は体育館の裏で二人でお弁当食べようね? ちゃーんとお弁当を作ってきたので! 日向愛しの美夜より』
という一文。余白が多かったということもあろう、文章の周りには、きらきらと星が浮かべてあったり、猫がごろにゃー転がっていたり。
女子から手紙なんか貰ったのは、はじめてだ。
いつか誰かに貰ったら額縁に飾ろうか、と夢見ていたくらいの幻の代物、Aランクの聖遺物――。
だが、俺の抱いていた理想とはかなり乖離があった。
俺は浮かんだ感想をそのまま、メッセージで伝えることとする。
『これ、手紙にした意味ある……?』
我ながら素直に書きすぎたかもしれない。
言いなおそうかと、メッセージを削除しようとしたそのとき、もう返信がある。
毎度ながら、素早すぎるレスポンスだ。恐れ入る。
『えっ! がーん、だよ。トイレの個室で、一人落ちこんでるよ。このまま亡霊、花子さんになりそうな勢いで盛り下がってるよ』
……そして、どこから返信してるんだよ、細川さん。
『霊魂になる前に教室戻って来いよ』
『手紙、持って帰って大事に机の中にしまっておいてくれるって言うなら、幽霊にならずに教室戻るよ。あと、一応気持ちこめて書いたんだし、お昼の約束はマストだからね。断ったら泣くよ?』
『はいはい、分かったよ。ってか、結局ほとんどメッセージで済んでるじゃん』
『結果はともかく! なんでもない日に、お手紙を送るって、恋人っぽい特別な過程だったでしょ』
『まぁそうかもしれないけど。中身伴ってなかったから、30点だな』
『ふふん、十分すぎるかも。私の英語のテストの6倍の点数だ!』
……呆れて、返事ができなくなる俺であった。
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