第3話 ビジネスカップルのはずなのに……? 撮影も終わってるはずなのに?

「今日の企画は、お互いのことをどこまで分かってるかクイズ~!」


学校では必要最低限、というか全く喋らない俺だが、動画となれば話は別だ。


普段使うわけのない柔らかな笑顔まで用意して、カメラへそれを向けた。


動画の世界では、印象で売ることがとにかく大事になる。だから、普段はあえて目が隠れるまで伸ばしている髪は、でこの横に綺麗に流した。


これまた、あえてしている猫背もやめて、自然体でいい姿勢を取る。

さらには化粧を軽くほどこして、肌色を少し変えると……。


これだけで、まったく見違えるらしいのだ。

学校では、ただただ暗い奴扱いされている俺だが、動画のコメント欄においては容姿を褒めてもらえることの方が多い。


もちろんクラスメイトに気付かれたこともない。

ちなみに美夜の方も、ウィッグをはめて髪型を変えたり、ぱっちりめの化粧を施したりすることで、学校とは違う正統派のキラキラキャラで売っているから、こちらもいまだ見つかっていないそうだ。


クイズの内容は、ある程度の回答も事前に決めてあった。


「じゃあ、まずは私が質問する側ね。一つ目! 私が今行きたい場所はどこでしょう~」

「……美夜の行きたい場所かー。お化け屋敷?」

「日向、それ全然遠いって。ユニバとディズニーくらい離れてる。もっと明るいところです」

「んー……ナイトクラブとか?」

「ねぇ、私のことどんな目で見てるの、日向。仮にも彼氏でしょ、ひどい~。答えは、朝焼けの見える海です! 美夜って名前だけど、朝が好きなんだよね」


……などと。

自ら多少寒いな、と思うくらいの甘々なやりとりを、恥ずかしがらずにやり切ると、ちょうどいいのだ。


しっかりと撮影を進め、合計して約20分ほどで、一本分である。

今日は撮り貯めることをメインにするつもりだったから、数本のネタを撮影したところで、撮影を終えた。


「ん、おっけー。今日はいい感じだったね」

「そうだな。ほとんど詰まるところもなかったし、あとは編集次第かな」


超事務的な会話を交わす。

そうしつつ、恋人を演じる都合上、彼女と寄せ合っていた右肩をすぐに離す。

そう、これはあくまでビジネスの関係だ。

いわば、ビジネスラブ。


それを勘違いするほど、俺は馬鹿ではないつもりだし、このたちばを利用してこの美人に好き放題触れてやるぜグヘへ……みたいな思いはましてない。


というか、そんなことをして、関係がぎくしゃくして、動画を取れなくなったら本末転倒だ。

俺は本気で、動画で身を立てるつもりなのだから。


たぶん、きっと、美夜も同じことを思っているはずだ。

陰キャで地味キャラあるところの俺に触れられていたい、とは考えているわけもない。


それどころか即答で、『まぢむり~、きもいんですけど~』案件だろう。

夢を見るまでもなかったはずなのだけど……


「もうちょっといいじゃん~。せっかく体温ちょうどいい感じに温かったのに」


最近は少しおかしいのだ。


なぜか彼女のほうから、こちらに倒れ掛かってくる。

それでもよけようとすると、少女漫画のイケメンよろしく反対の肩に手を回され、ぐっと軽く引き寄せられる。

二人とも薄着であるせい、肩先はぴとりと肌と肌が触れ合っていた。


「…………あの、細川さん? カメラ止まってるんだよな、これ。撮影終わってるよな?」

「え、うん。さっき止めたじゃん、見てなかったの?」


美夜は俺がおかしいみたいに言って、その状態でスマホをいじりだすけれど、絶対にそうじゃない。


前までは動画が終われば、即離れるような、ドライを極めきった関係だったはずだ。

最近の美夜の振る舞いは、なにかがおかしい。

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