42話

「まぁ、私は殿下とかどうでもいいから気にならないけどねぇ。

当然ゲームの私は激怒よ。それで、ヒロインに対する嫌がらせやらが始まるんだけどね。」


嫌がらせは良くないけど、これはゲームの悪役令嬢が激怒するのも無理はない気が。

と言うか、完全に王太子が悪いでしょこれ。


「私は嫌がらせとかするつもりないから。

ね?殿下って中々のクズでしょ?」


私の心の声が聞こえたのか、表情から察したのか。

セリーナさんは苦笑いだ。


「お嬢様、お待たせ致しました。」


このまま王太子への愚痴大会が始まりそうな気配が漂って来たが、マリーさんが戻って来たから一度中断される。


「ありがとう、やっぱり寝起きにはマリーのお茶よねぇ。」


優雅に微笑みながらお茶を飲むセリーナさんだが、それを見るマリーさんの目が笑ってない。

あ、これやばいやつだ。


「恐れ入ります。

で、お嬢様?先程の話はどういうことでしょうか?」


「え?あぁ、どの話かな?」


セリーナさんもマリーさんの雰囲気を察したようで、顔が引き攣っている。

ちなみに、私は既に退避済みだ。


「本来お怒りになるべきお嬢様が我慢してらっしゃるのに私があれこれ言うのも如何なものかとは思います。

ですが、長年お嬢様にお仕えしてきた身としては、これは看過できません!!」


王太子への怒りで般若の形相になっているマリーさん。

これはパーティの仕度の前に、マリーさんを宥めるという大仕事が発生したようだ。

頑張ろう……。


怒れるマリーさんをなんとか宥め、身支度を終えたセリーナさんは1人でパーティへと出掛けて行った。


ややキツめの印象を与えがちではあるものの、紫色のドレスに身を包んだセリーナさんは本当に美しかった。

私と同じ16歳のはずだけど、とても大人っぽいし……。

前世は社会人だったらしいから、その辺の人生経験の差が外見にも出てるんだろうか。いや、そんな訳ないか……。


「 はぁ……。」


完全に自分の世界に入ってあれこれ考えていたけど、マリーさんの溜め息に現実に引き戻される。

とりあえずの怒りは収まったみたいだけど、全然納得はしてないみたいだ。

まぁ私だってゲームの展開だからどうしようもないって聞いていても納得出来ないし。


「悔しいですよね。お嬢様にとっても大切なパーティなのに。」


「そうね……。社交界デビューって言ってもいいこのパーティでこれはあんまりだわ。

お嬢様に何の罪があってこんな扱いをされないといけないのよ……!」


「マリーさん……。」


セリーナさんの幼少期からずっと近くにいたマリーさんの悔しさは、きっと私なんかとは比べものにならない。

それでもギリギリのところで堪えてたのは、セリーナさんが何も言わないから。

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