第3話

「そろそろ屋敷に着きますわよ。」


どれくらい外の景色を見ていただろうか。

いや、見ていたというより呆然としていたと言う方が正しいかもしれない。


セリーナさんの声にハッと我に返る。


馬車はいつの間にか雑多な人々で溢れる市街地を抜け、辺りには大きな屋敷が立ち並んでいる。


「ほら、あちらに見えますのが我がラズウェイ家の屋敷ですわ。」


外を見るセリーナさんの視線の先にあるのは、周りとは明らかに違う大きさの屋敷。


馬車が門に近付いて行くと、すっと内側から門が開き、馬車は速度を落とすことなく中に入って行く。


やがて屋敷の目の前までたどり着くと馬車が止められ、扉が外から開かれる。


さっさと降りていくセリーナさんに続き、私も恐る恐る恐る馬車から降りる。

その時に、御者の方がセリーナさんだけでなく、私にまで恭しく手を差し出して助けてくれるものだから、申し訳ないやら恥ずかしいやら……。


「さ、付いていらして。」


そんな私に構うことなく、セリーナさんは私の手を取ると屋敷の中に入って行く。


「おかえりなさいませ、お嬢様。」


屋敷内に入ったセリーナさん(と私)を、腰を綺麗に45度に曲げたお辞儀で出迎える初老の男性とメイド服に身を包んだ女性の皆さん。


うわぁ、本物のメイド服初めて見た。

男性の方は燕尾服ってやつかなこれ。


「こちらの方は?」


ぽかーんと見つめる私にちらっと視線を向け、男性が尋ねる。


「お客様よ。私室にお通しするわ。」


セリーナさんは、それだけ告げると私の手を引きずんずんと進んで行く。


「あ、お邪魔します……。」


手を引かれたまま、ぺこりとお辞儀して何とか付いていく私。

めっちゃ不審に思われてないかなこれ。大丈夫?


そんな私には構うことなくずんずんと進み続け、2階の一室の前で立ち止まると、扉の前で控えていたメイド服の女性がすっと扉を開く。


「どうぞ、お入りになって。」


促されるままというか、手を引かれたまま部屋に入る。

室内の家具は、白を基調とし、美術品の心得が全くない私でも高級であろうことが伺える。

窓際にあるベッドには天蓋まで付いている。


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