12-1 起床転落

日時

【四月二十六日 日曜日 十六時三十七分】

場所

【社本部】

人物

【不明】


 畳敷きの大部屋では数十名の人間が一時も休むことなく動いていた。

 和室にはおおよそ不似合いなパソコンが並び、キーボードを打つ音が絶え間なく、時に重なり合いながら一つのリズムを刻む。

 それはさながら読経のようですらあった。

 その中にあって、一人の老婆がぽつりと身動ぎせずに座っている。

 彼女の周りだけ時間が止まってしまったように、静寂があった。

 キーボードを打つ音が一つ消える。

 縁の太いべっこうの眼鏡をかけた初老の男性が顔を上げていた。


「そろそろ準備が整います。」


 男に促され、老婆はするりと立ち上がる。

 小さな嘆息が漏れた。


「お鏡使うんは、何度やっても慣れんねぇ。」

「心中お察しします。」

「鶏の塩梅は?」

「もう直ぐにでも地上に声が届くかと。」

「それは急がないかんね。」

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