第23話 ブライン様に怒られました
階段突き落とし大作戦が大失敗に終わった翌日、いつもの様に貴族学院へと向かう。そういえば昨日、王宮に行くのを忘れたのよね。ブライン様に直接謝った方がいいかしら?
そう思ったものの、私はいずれ婚約破棄する身。別に私が王宮に1日行かなくても、問題ないか。お母様も使いを出してくれたみたいだし。
この日はクラスの友人たちと一緒にお昼を過ごす。
「オニキス様、やっぱり昨日の件、納得いきませんわ。クロエ様は何を考えているのかしら?最近は殿下にあしらわれているみたいですが、めげずに頻繁に話しかけている様ですわ。もしかしてオニキス様を悪者にして、殿下に取り入ろうと考えているのではないかしら?」
「私もそう思いましたわ。オニキス様、今回の件、正式にミレィシャル伯爵家に抗議をした方がよろしいですわ」
どうやら昨日の階段突き落とし大作戦に関して、令嬢たちは色々と不満に思っている様だ。ここは何とか穏便に済ませないと。
「皆様、私の為にありがとうございます。でもクロエ様はそんなに悪い方ではありませんわ。昨日のは…なんと言いますか…とにかく、昨日の事はどうか忘れて下さい。そうそう、私、王都で人気のスイーツを持ってきたのですの。どうぞ召し上がってください」
すかさず話題を変える。
「まあ、美味しそうなお菓子です事。それに動物や植物の形をしているのですね。可愛いわ」
すかさずスイーツに食いつく令嬢たち。よし、上手く話しをそらすことが出来たわ。
友人たちと楽しいお昼休みを過ごし、午後の授業も終え放課後を迎えた。今日もブライン様の従者の方に、王宮に来るように言われる。昨日行かなかったものね。さすがに今日は行かないとマズいだろう。
一応昨日の事、ブライン様に謝らないと。そう思い、校門を目指すと、そこにはブレッド様がいた。
「ブレッド様、今お帰りですか?昨日はクロエ様の事で、色々とありがとうございました」
改めてブレッド様にお礼を言う。すると、なぜかキョロキョロと周りを見ているブレッド様。
「あ…オニキス嬢…その事は全然気にしなくてもいいです。そうそう、殿下がなぜか俺と君の仲を心配されていてね。もう俺には話しかけない方がいい。それじゃあ」
早口でそう言うと、ものすごいスピードで去っていた。一体何だったのかしら?よくわからないが、まあいいか。
馬車に乗り込み、王宮を目指す。そしていつもの様に、ブライン様が待つ部屋に通された。相変わらず優美にお茶を飲んでいるブライン様。一切私の方を見ないのは、いつも通りだ。
「ブライン様、お待たせいたしました。昨日は来られずに、申し訳ございません」
深々とブライン様に頭を下げ、そのまま向かいの席に座る。今日もカモミールティが準備されていた。王宮のカモミールティ、美味しいのよね。
「オニキス、昨日の事だが、どうしてあんなふざけたお遊びをしていたんだい?」
「え?」
急にブライン様が呟いた。相変わらず私の方は一切見ていないが、声のトーン的に怒っている様だ。
「君は僕の婚約者だ。万が一誤って階段から転げ落ちでもしたら、どうするつもりだったんだい?階段は危険だ。二度とあの様なふざけた事はしないでくれ。それから、ブレッドとも随分親しいみたいだね。あまり特定の異性と仲良くするのは、よくないよ」
どうしてここでブレッド様が出てくるのかしら?
「えっと…階段の件は申し訳ございません。以後気を付けますわ。でも、ブレッド様の件は、特に仲良くした記憶はございません。そもそもブレッド様は、怪我をしたクロエ様を運んでくださったのです。ですから、お礼を言ったくらいですが…」
「き…君がそう言うなら、信じるよ。ただ、もう二度と危険な事はしない様にしてほしい。それから、あまりミレィシャル伯爵令嬢には近づかない方がいい。あの女、何を考えているかよくわからないからね」
クロエ様に近づくなか…もしかして、昨日の階段大作戦で、クロエ様が怪我をした事を怒っているのかしら?それで、クロエ様の怪我の原因でもある私に、怒っているのね。
やっぱりブライン様は、クロエ様を愛していらっしゃるのだわ。という事は、昨日の階段突き落とし大作戦は、成功したという事でいいのね。
よし、これで婚約破棄が一歩近づいたわ。
「ブライン様、分かりましたわ。大丈夫です、私が必ずあなた様を幸せへと導いて見せますわ!」
昨日の作戦が成功したことが嬉しくて、ついブライン様の元に駆け寄り、彼の手を握って笑いかけた。でも、それがいけなかった様で…
「きゅ…急に僕に触れないでくれ。とにかく、君は僕の婚約者だ。これからは自分の行動に、十分気を付ける事。いいね!」
そう言うと、私の手を振り払い、ものすごいスピードで部屋から出て行ってしまった。もしかして、私に手を握られることがそんなに嫌だったのかしら?
そういえば私、ブライン様に触れたのって、初めてかもしれないわ…私に触れられたことで、あれほどまでに嫌悪感を露わにするだなんて。やっぱり私、相当ブライン様に嫌われているのね…
そう思ったら、なんだか悲しくなって、トボトボと歩きながら王宮を後にしたのだった。
【あとがき】
~オニキスに手を握られた後のブライン~
「殿下、大丈夫ですか?」
「オ…オニキスの柔らかくて温かい手が、僕の手を…」
「殿下、しっかりしてください。凄い鼻血です。すまないが殿下をすぐに部屋に運んでくれ。それから、医者も呼んでくれ」
「かしこまりました」
鼻血が噴き出て意識が朦朧としているブラインを護衛騎士たちが担ぎ、自室へと運ぶ。
「オ…オニキスが僕の手を…」
「しっかりしてください。出血がひどい。とにかく早く止血しないと」
ちょうどそのタイミングで、医者がやって来て応急処置を行っていった。無事鼻血も落ち着いたブライン。
「殿下、大丈夫ですか?本当にあなた様は!」
「ヴァン、オニキスが僕の手を触れたんだ。僕の手にオニキスが」
「落ち着いて下さい、興奮すると、また鼻血が出ますよ。手にも鼻血が付いておりますね。ふき取らないと」
「触るな!手はこのままでいい。この手にはオニキスの温もりが残っている。もう一生手は洗わない」
「殿下、バカげたことを言わないで下さい。ほら、血だらけの手を拭きますよ」
「嫌だ、放せ!」
押し問答の末、なんとか手を拭く事が出来たヴァン。ただ…ブラインから猛クレームを受けたため、仕方なく公爵家から取り寄せた、オニキス愛用のリップクリームを手渡し、事なきを得たのだった。
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