第18話 屋敷で練習しますが…

階段からうまく突き落とすことが出来なかった私が、今度は令嬢の顔を扇子で叩くだなんて。そんな恐ろしい事、私に出来るのかしら…


いいえ、出来るのかしらじゃなくて、やるのよ。そうよ、この行いが出来ないと、私もクロエ様も、そしてブライン様も幸せになれないのよ。よし、帰ったら早速練習をしないと!


急いで馬車に乗り込み、家路へと付く。


「あら?オニキス、今日は王宮で夕食を食べてこなかったの?」


「王宮?」


そうだったわ、今日王宮に来るように言われていたのだった。どうしよう!すっかり忘れていた。


「お母様、どうしましょう。友人と過ごした後、王宮に来るようにと言われていたのでしたわ」


「あら、すっかり忘れて帰って来てしまったのね。もうすぐお父様も帰ってくるし、今日はもう行かなくても大丈夫よ。すぐに王宮には使いを出しておくから、たまには家でゆっくりしなさい」


「本当ですか?ありがとうございます。それでは着替えてきますね」


お母様が話を付けてくれると言ってくれてよかったわ。さすがに今から王宮に行くのは、大変だものね。急いで着替えを済ませ、部屋から出ると、ちょうどお父様も帰って来た。そして、久しぶりに3人で食事をする。


「オニキス、最近どうだい?学院生活や殿下との関係は?」


「はい、皆様本当に良くしてくださるので、とても楽しい生活を送っておりますわ。ブライン様は、相変わらず私とあまり話をして下さらないし、目を合わせて下さいません…」


「そうか…殿下はシャイだからな。それより今日、ちょっとした騒ぎがあったそうじゃないか?オニキス、伯爵令嬢に虐められているのかい?」


キラリとお父様の目が光った。これはマズイわ。お父様がクロエ様の実家に抗議でも入れたら大変だ。


「いいえ、とんでもありませんわ。えっと…その…クロエ様はとてもいい人…じゃなくて、良きライバルですわ」


とにかく、私たちが仲良しだという事がバレると計画は台無しになると、クロエ様が言っていた。


「そうか、それならいいが。いいかい、オニキス、君はたまに間違った方向に進んでしまう時がある。それと、変な嘘にも騙されやすい。くれぐれも気を付けるんだよ、分かったね」


「ええ、大丈夫ですわ」


なんだか気まずくなって、急いで食事を済ませ、自室へと向かう。そして、早速扇子で叩く練習スタートだ。


とりあえずクロエ様はぬいぐるみで練習してもいいとおっしゃっていたわ。でも、どの子にしようかしら?この子も可愛いし、この子も可愛い。こんな可愛い子たちを扇子で叩くなんて、可哀そうだわ。う~ん…


悩んだ末、とりあえず枕で練習をする事にした。


枕めがけて、扇子でバシバシ叩く。


「お嬢様…今度は何の真似ですか?」


マリンが呆れた顔で聞いて来たのだ。


「2ヶ月後に王宮で夜会があるでしょう?その夜会で私がクロエ様を扇子で叩く事になっているの。それで、枕で叩く練習をしているのよ」


「まだそんなおバカな事をやっていらっしゃるのですか?今日だって、結局階段からクロエ様を突き落とすことが出来なかったではありませんか」


はぁ~とため息を付くマリン。


「あら、今度は大丈夫よ。こうやって練習をしているのだから」


「そんな枕を扇子で叩いている様では無理ですね。第一心のお優しいお嬢様が、人間を扇子で叩けるわけがありません」


「そんな事はないわ、まだ2ヶ月あるのよ。枕が慣れたら今度はぬいぐるみで練習をするつもりよ。でも、私の持っているぬいぐるみ、どの子も可愛いのよね…こんな可愛い子たち、叩けないわよ。そうだわ、マリン、あまり可愛くないぬいぐるみを買ってきてちょうだい。それならきっと、大丈夫よ」


「いい加減にしてくださいませ!ぬいぐるみを叩けないお嬢様が、どうやってお可愛らしいクロエ様が叩けるのですか。バカな事をしていないで、さあ、湯あみにしますよ」


有無も言わさずマリンに連れられ、湯あみ場へと連れてこられた。そして服を脱がされ、綺麗に洗われる。体も髪も綺麗になったところで、別のメイドが可愛らしい寝間着を着せてくれた。


「まあ、この寝間着、初めて着るわ。とても可愛らしいわね。でも、前着ていた寝間着、ほとんど着ないうちに新しいのに変わってしまったのよね。最近交換頻度が早くない?」


最近やたらと私の使っている寝間着やシーツ、枕カバーなどが変わるのだ。私としては、そんなに頻繁に取り換えてもらわなくてもいいのだけれど。


「奥様からの指示でございます。お嬢様はいずれ、王妃様になられるお方。寝具は頻繁に取り替えなさいとの事でございます」


「まあ、お母様が。もう、お母様ったら。今度お母様にそんなに頻繁に替えなくていいと伝えておくわ」


よし、お風呂にも入ったし、早速扇子で叩く練習をと思ったのだが


「お嬢様、また先ほどの続きをするおつもりなのですか?いい加減にしてください。ほら、もうお休みのお時間です。カモミールティを入れましたので、ゆっくり飲んで早く休んでください。とりあえず扇子は没収いたします」


「待って、マリン。それがないと練習が…」


「いい加減にしてください。それでは、私をこの扇子で叩いてみてください」


「そんな事、出来る訳がないわ。あなたは私の大切なメイドなのよ」


「お嬢様、メイドですら叩けないあなた様が、クロエ様を叩くなんて無理です。諦めて下さい」


そう言うと、扇子を持って部屋から出て行ったマリン。仕方ない、これからはマリンに気付かれない様に、こっそりやらないと。



※次回、ブライン視点です。

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