第11話 僕と婚約破棄したいだって!~ブライン視点~

貴族学院2年も終わり、いよいよ僕たちの結婚まで後1年と迫ったある日の事。今日やっとオニキスの愛用していた寝間着が届いた。


早速匂いを堪能する。そして今日もオニキスの様子をモニターで確認した。どうやら寝る前に、カモミールティを飲んでいる様だ。オニキスはカモミールティが大好きだもんな。いいな、僕もあのカップになりたい…


オニキスの寝間着を抱きしめながらモニターを見ていると


「殿下、それはオニキス様が愛用していた寝間着ではありませんか。またその様な物を取り寄せて。本当にあなたって人は…」


僕の部屋にやって来たヴァンが、ギャーギャー怒っている。うるさい奴め。


その時だった。


“ねえ、マリン。私、このまま本当にブライン様と結婚しても、いいのかしら?ほら、ブライン様は私の事を嫌っていらっしゃるでしょう?”


はぁ~と、ため息を付きながら、あり得ない事をオニキスが言い出したんだ。僕がオニキスを嫌っている?びっくりして立ち上がり


「オニキス、君は何を言っているんだ?僕は君を誰よりも愛しているんだよ」


必死にモニターに向かって叫ぶ。


「殿下、落ち着いて下さい。モニターに叫んだところで、オニキス様には聞こえませんよ」


ヴァンがあきれ顔で呟いている。


さらに伯爵令嬢と僕の仲を疑っている様子。あのピンクの髪の女の事か。確かにあの女、僕にやたら絡んでくるな。少しでもオニキスが嫉妬してくれたら嬉しいと思って、少し相手になってやっていたのだが、どうやらそれもよくなかったらしい。


そしてついに


“婚約破棄をしようと思っているの”


と、オニキスから恐ろしい言葉が飛び出したのだ。


「僕と婚約破棄だって!オニキス、君は一体何を考えているんだ。僕が君と婚約破棄をする訳がないだろう。僕はこんなにオニキスを愛しているのに!こうしちゃいられない、今すぐ公爵家に向かわないと!」


「殿下、落ち着いて下さい。オニキス様は、あなた様が自分のお部屋をのぞき見しているなんて、知らないのですよ」


「分かっている!だから公爵に話しをしに行くんだ!一刻も早く、オニキスに婚約破棄の事を諦めさせないと!」


「だから、少し冷静になってください!」


「止めるな、ヴァン!」


僕とヴァンがギャーギャー揉めているのを聞きつけ、父上と母上がやって来た。


「一体何を騒いでいるのだ。護衛騎士が呼びに来たぞ!」


「父上、大変です。オニキスが僕と婚約破棄をしたがっているのです。今すぐ公爵家に乗り込んで、公爵を通してオニキスを説得しないと。オニキスは、僕が彼女を嫌っていると、勘違いしているのです。もしオニキスに婚約破棄されたら、僕はもう…」


「しっかりして、ブライン。そもそもあなた、オニキスちゃんにいつも冷たくしているでしょう?あれじゃあ、オニキスちゃんがあなたに嫌われていると思っても仕方がないわ。もう婚約して、8年も経っているのよ。いい加減、鼻血を制御できないの?このままだと、結婚して初夜を迎えた時、困るわよ」


初夜…

オニキスの柔らかくて美しくて白いからだが、僕のものに…


「ちょっとブライン、また変な妄想をしたわね。鼻血が噴き出たわ。ヴァン、すぐに手当てを。本当にこの子は…」


「とにかく、映像を見る限りでは、公爵に“婚約破棄は出来ない”と言われた様だから、きっとオニキス嬢も諦めるだろう。それにしてもこの部屋、なんとかならないのか?公爵家からオニキス嬢の寝間着まで取り寄せて…公爵が知ったら、さすがに怒り狂うぞ…」


「そうね…全く、夫人をうまく味方につけちゃって…本当にブラインは…」


「メッション公爵夫人は美しい方がお好きですからね…殿下がちょっとお願いしたら、すぐに聞いて下さいましたよ…全くもう…」


「とにかく、お前はもう少しオニキス嬢の免疫を付けろ。そしてオニキス嬢をもう少し気遣え。大体、優しいオニキス嬢に婚約破棄したいと言わせるなんて、男として失格だぞ。いいな、分かったな。これはオニキス嬢に返しておくからな」


父上がオニキスの寝間着を持って、部屋から出て行った。


「父上、それは僕の物ですよ!」


急いで取り返そうとしたのだが、出血が多くて、頭がクラクラする。


「殿下、今回は出血量が多いので、もう少し横になっていてください。本当に、こんなので初夜が迎えられるのですか?全くもう…いっその事、オニキス様は殿下から逃げた方が、幸せになれるのでは…」


「おい、ヴァン!今なんか言ったか?」


「いいえ、何でもありません。陛下もおっしゃっていた通り、公爵様が上手くまとめて下さったようですし、もう今日はお休みください。モニターも消しますからね」


そう言ってモニターを消して出て行ったヴァン。


公爵がきちんとオニキスを説得してくれたのだから、まあいいか。そう思っていたのだが、翌日。


何とオニキス直々に、僕と婚約破棄をしたいと申し出て来たのだ。それも満面の笑みで!ふざけるな!誰が婚約破棄なんてするものか!


僕は婚約破棄をしないとはっきりと告げ、さらに王妃教育の復習の為、学期末休みの間は毎日王宮に来るように伝えた。


本当はいかに僕がオニキスを好きかも伝えたかったのだが、生憎露骨にオニキスを見てしまった為、また鼻血が噴き出てしまい、慌てて退散した。ギリギリのところで、オニキスには見られていなかった様だ。


それでも怒りがおさまらない僕は、メッション公爵と息子のジョンソンを呼び出し、強く抗議する事にした。


「公爵、それからジョンソン、一体どういう事ですか?僕に直々に婚約破棄したいと、オニキスが頼みに来ましたよ!僕は絶対に婚約破棄なんてしませんからね!」


「何と…それは申し訳ございませんでした。ただ…オニキスも思うところがある様でして、もう少しオニキスと密に接して頂けないでしょうか?」


ジョンソンが申し訳なさそうに呟いた。


「僕はオニキスを愛しすぎるあまり、興奮して鼻血が出るのです」


「…ああ、それで鼻の穴に紙を詰めているのか…」


ジョンソンがブツブツと呟いている。


「とにかく僕は、オニキスと婚約破棄するつもりはないので。第一、どうしてもっとオニキスに“婚約破棄は出来ない!”と言ってくれないのですか?僕はもう倒れそうだ!」


「殿下、大変申し訳ございませんでした。私共も、陛下とオニキスを婚約破棄させるつもりはありません。オニキスには厳しく言って聞かせますので。それではこれで、失礼いたします」


その後オニキスは、公爵とジョンソン、さらに夫人から厳しく怒られ、当日を含め3日部屋からの外出を禁止されていた。さらに僕からは、オニキスの教育係に話しをし、いかに婚約破棄する事がいけない事なのか、しっかり話してもらった。


どうやらオニキスは、教育係からの説教が辛かった様だ。少し可哀そうな事をしたが、これでオニキスも、婚約破棄の事は諦めるだろう。

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