第3話 王宮へ向かいます
翌日、今日は快晴だ。いつもはブライン様の瞳の色に合わせて、グリーンのドレスを着ていくのだが、今日は私の瞳に合わせてオレンジのドレスにした。そう、ブライン様との決別の意味も込めている。
「お嬢様、本当にグリーンのドレスでなくてよろしいのですか?」
隣で不安そうに呟くマリン。
「ええ、大丈夫よ。それより私のクローゼット、どれもこれもグリーンのドレスばかりね。今度デザイナーを呼んで、他の色のドレスも作ってもらわないと。婚約破棄をしたら、やっぱりもうグリーンのドレスは控えた方がいいでしょう?」
「お嬢様、あなたって人は…」
私の隣で、マリンがため息を付いている。何がそんなに気に入らないのかしら?この子。さっぱり分からないわ。
「さあ、マリン、行きましょう。もしかしたら今日が王妃様とお茶をするのも、最後になるかもしれないわね。王妃様はとてもいい人なのに。なんだか寂しいわ」
「いいえ…最後になる事は絶対にありませんので、そんな心配はいりませんわ…王妃様には婚約破棄したい事はおっしゃられない様にお願いします…」
「もう、何よ、そのやる気のない言い方わ。大丈夫よ、さすがに王妃様には婚約破棄の話はしないわ。ねえ、マリン。私から婚約破棄の言葉が出たら、ブライン様はきっとお喜びになると思うの。私、最後にブライン様の喜ぶ顔が見るのが、楽しみで仕方がないわ」
せめて最後くらい、喜ぶ顔が見たいのだ。
「…」
何も返事をしないマリン。それどころか、私を残念な者を見る様な目で見つめている。
もう、何なんなのよ、一体!
気を取り直して、馬車に乗り込んだ。しばらく走ると、立派な王宮が見えてきた。ここに来るのも、今日で最後かしら?そう思うと、なんだか寂しいわね。
まずは王妃様とお茶会だ。
いつもの様に中庭に向かうと、美しい金髪を腰まで伸ばした女性が、嬉しそうにこちらに走って来た。そう、王妃様だ。
「オニキスちゃん、待っていたのよ。さあ、早速お茶にしましょう。今日はね、隣国から有名なお茶を取り寄せたの。オニキスちゃんと一緒に飲みたいと思って」
「まあ、とても美味しそうなお茶ですわね。私も今王都で流行っていると言われている、砂糖菓子を持ってきましたの。とても甘くて美味しいのですよ。それに、見た目も可愛いのです」
「まあ、本当ね。お菓子が動物やお花の形をしているわ。これは素敵ね。さあ、座って」
お優しい王妃様はこうやって私を定期的にお茶に誘ってくれるのだ。それにしても王妃様は女神の様に美しい。16歳の息子がいるとはとても思えないわ。ちなみにブライン様の神的な美しさは、王妃様に似た様だ。
「このお茶、とても香りがいいですわ。それに、味もとても美味しいです。そうだわ、このお茶にこの砂糖菓子を入れたら美味しいかと」
早速お茶に砂糖菓子を入れた。ん!これは、美味しすぎるわ。
「王妃様、お茶と砂糖菓子、とても合いますわ。ぜひ試してみてください」
あまりの美味しさに、王妃様にも勧めた。
「こんなに可愛らしいお菓子をお茶にいれるのは勿体ないけれど、せっかくオニキスちゃんが進めてくれるのだから、入れてみるわ」
そう言うと、お茶にお菓子を入れた王妃様。ちょっとした動きも、とても美しい。
「本当だわ。これ、とても美味しいわね。癖になりそうね。本当にオニキスちゃんのチョイスは素晴らしいわ。それで、最近学院はどう?あなたの評判は王宮にも届いているのよ。相変わらず、皆があなたに頼っている様ね。さすがオニキスちゃんね」
王妃様は、私を褒めるのが天才的に上手だ。この人、美しいだけでなく心もとっても綺麗なのだ。つい楽しくて、王妃様と話に花を咲かせる。
「失礼いたします。オニキス様、殿下がお待ちです。そろそろよろしいでしょうか?」
「あら、もうそんな時間なの。もう少しオニキスちゃんと話したいわ。でも、あまり私が独占すると、ブラインに怒られるわね。あぁ、早くオニキスちゃんが嫁いできてくれないかしら?」
王妃様、ブライン様は私なんて待っておりませんわ。それに私たちは、今から婚約破棄をするのです。なんて事は、言えないわよね。
「私でよろしければ、またいつでもお付き合いしますわ。それでは王妃様、これで失礼いたします」
笑顔で手を振ってくれる王妃様に頭を下げ、ブライン様の元へと向かう。
いよいよね、なんだか緊張してきたわ。
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