第2話 早速お父様にお願いしました

この時間はきっとまだ執務室だわ。急いで執務室へと向かう。


「お父様、大切な話があります」


執務室に入ると、やはりお父様がいた。


「どうしたんだい?オニキス。そんなに嬉しそうな顔をして」


「別に嬉しそうな顔なんてしておりませんわ。お父様に大切な話があって参りました」


「大事な話?それはどんな話かな?」


優しい微笑を浮かべ、イスに座ったお父様。これはきっといけそうだわ!


「お父様、どうかブライン様と婚約破棄させてください!」


私の言葉に、目を大きく見開いて固まるお父様。一体どうしたのかしら?


「オニキス、すまないが私は耳が少し遠くなってしまった様だ。もう一度言ってくれるかい?」


お父様ったら、耳が遠くなっただなんて。でも、もしかしたら私の声が小さかったのかもしれないわね。


「お父様、ブライン様と婚約破棄をさせて下さい!」


今度は大きな声ではっきりと伝えた。どうだ、これでよく聞こえただろう。


「…オニキス…お前は一体何を言っているのだい?そんな事、今更出来る訳がないだろう。そもそもどうして、そんな話になったのだい?」


なぜか頭を抱えながら、お父様が私に聞き返してきた。お父様ったら、一体どうしたのかしら?まあいいわ、私の気持ちを聞けば、きっとお父様も承諾してくれるはず!よし!


「お父様、私は8歳でブライン様と婚約いたしました。でも、ブライン様の気持ちを無視しての婚約だったでしょう?そのせいもあってか、ブライン様は私を愛していらっしゃらない、むしろ嫌っていらっしゃるみたいですの。やっぱり愛のない結婚なんて、よくないと思いますわ。だから、ブライン様の為にも、婚約破棄をさせて欲しいと思いまして」


どうだ、私はブライン様の事を考えて婚約破棄を提案したのだ。優しいだろう!という思いで伝えたのだが。なぜかまた頭を抱えてしまったお父様。


「いいかい、オニキス。王太子殿下と婚約するという事は、そんな簡単に婚約破棄は出来ないんだよ。百歩譲ってお互いが愛し合っていなかったとしてもね…そうだな、何か正当な理由がない限り、婚約破棄は出来ない」


「そんな。でも、お父様とお母様は愛し合って結婚したのでしょう?」


「私たちはそうだが、それでも家柄なども考慮されお互いの家族に認められて結婚したんだよ。第一、家から結婚を申し込んでおいて、家から婚約破棄なんて出来る訳がないだろう。それに…殿下が絶対に認めないだろうし…」


「お父様、最後の方が聞こえませんでしたわ。なんて言ったのですか?」


「何でもない!とにかく、我が家が犯罪にでも手を染めて没落しない限り、婚約破棄は出来ん。訳の分からない事を言うのは止めなさい。いいね、分かったね。この話しはもう終わりだ!」


そう言うと、私をさっさと執務室から追い出してしまったお父様。もう、お父様ったら。そういえば今、お父様が“家から結婚を申し込んでおいて、家から婚約破棄なんて出来る訳がない”と言っていたわ。という事は、ブライン様から婚約破棄してもらえば問題ないって事よね。


よし、それなら明日、早速ブライン様に婚約破棄をしてもらう様に頼んでみよう。ブライン様は私の事がお嫌いだから、きっと泣いて喜ぶわ。


そのまま部屋に戻ると


「お嬢様、そんなに嬉しそうなお顔をして。まさか旦那様は、お嬢様の訳の分からないお願いを、お聞きになったのですか?」


心配そうな顔をして飛んでくるマリン。訳の分からないお願いとは、失礼ね。正当なお願いよ。


「いいえ、断られたわ。でもね、私、いい事を思いついたの。お父様が駄目なら、ブライン様に直接お願いすればいいんだってね」


満面の笑みでマリンに伝えた。


「お止めください、お嬢様。その様なふざけたお話を殿下にされてはいけません!」


「何がふざけた話よ。こっちは真剣なの。大丈夫よ、きっとブライン様は泣いて喜んでくださるわ。だって彼は、私の事が大嫌いなのですもの。マリン、きっと明日には私は、婚約破棄をしているだろうから、慰めて頂戴ね。私、これでもブライン様が大好きだったのですもの…」


そう、私はブライン様が今でも大好きなのだ。それでも彼の為を思って身を引くのだ。私って、健気ね…


「そんなにうまく行くとは私は思えません。どうか、お考え直し下さい。あまりおバカな事をすると、旦那様に叱られますよ!」


「お父様は私に甘いから大丈夫よ。それじゃあ、明日に備えて私、早く寝ないといけないから。おやすみなさい、マリン。あなたもいい夢を見てね」


「はぁ~、全くお嬢様は…私はどうなっても知りませんからね。それでは、おやすみなさいませ」


マリンがため息を付きながら出て行った。


さあ、明日はブライン様に婚約破棄を申し込むのだ。きっとブライン様も喜んでくれるはず、私には一度も向けた事のない笑顔を、最後に向けてくれると嬉しいな。


そんな思いを抱きながら、眠りについたのであった。

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