第131話 〈配信コメント欄〉
颯たちが中ボス部屋に入ろうとしていた少し前のこと。
〈ハヤテたちはこれから中ボス戦だけど、なんかもう木叢のダンジョンの中ボス倒した奴らがいるらしい〉
強制配信のコメント欄にそんなことが書き込まれた。
〈は?〉
〈ハヤテたちより速い攻略者?〉
〈そんなんおるわけないやろ〉
〈嘘乙〉
米国大統領も認めたハヤテが最強の攻略者。その彼が強い仲間を引き連れて本気で攻略を進めている。誰もハヤテに追いつけるわけがない。このコメント欄に集まった人のほとんどがそう思っているので、既に中ボスを倒したなどという情報は簡単に嘘だと認定されてしまう。
〈嘘じゃねーって! ほら、これ。その攻略者たちの強制配信URL〉
投稿されたリンクを確認する人々。
〈……えっ〉
〈これ、マジ?〉
〈嘘だろ〉
〈ハヤテたちが、負けた?〉
信じられない。
信じたくないという視聴者が多い。
〈それじゃ、こいつらが女神に挑むんだ〉
〈それは絶対ハヤテだって思ってた〉
〈まじかぁ…。なにやってんだよ〉
〈エレーナとペア攻略しときゃ良かったんだよ〉
颯と玲奈はふたりで木叢のダンジョン攻略を進めていた。それを一旦中止して直人と芽依の攻略に同行していたのだ。そのおかげで攻守が整った最強のパーティーが完成していたのだが、一度女神を圧倒したハヤテなら今回も問題ないだろうと考える視聴者は少なくなかった。
誰もが自分が最強だと信じる者に負けてほしくない。
強制配信を見る人々は少し落ち込んでいた。
〈ん? 先に中ボス撃破した奴ら、休憩してね?〉
ダンジョンの地面に座り込み、すぐボス戦に行く様子ではなかった。
〈疲れたんかな?〉
〈誰か怪我したとか?〉
〈そうは見えないけど〉
〈なにしてんだ?〉
談笑しているだけで、ボス戦に向けてアイテム整理すら始めない5人の男女。
〈意味わかんねーな〉
〈てかコイツら誰?〉
〈ひとりは分かるよ。南雲 龍之介〉
〈ソロで偽ハヤテ倒せる実力者だな〉
〈確か彼も東雲学園のSランクのはず〉
〈じゃあ、ハヤテのクラスメイト?〉
〈そうかも〉
〈なんで一緒に攻略しないの?〉
〈さぁ???〉
ボスに女神が憑依している情報は世界中の人が知っている。エンドコンテンツともいえる女神の存在がすぐそこにあるのに、ダンジョンに挑む者が足を止めている意味が分からなかった。
〈あっ。颯たちが中ボス戦始めた!〉
ボスに挑まない理由は分からない。しかし女神に挑むのがハヤテになるならそれで良いと、視聴者たちは次第に龍之介たちのことから意識を外していった。
──***──
時は現在。
芽依の放った合成魔法が女神に迫る。
「あ、アクアブレストロッド!」
地面から立ち昇った巨大な水柱が魔法を撃ち消した。
〈ちょ、おまっ!!〉
〈それはチートだろぉぉぉ〉
〈フローラが水系の大技つかうな!〉
〈はい。クソゲー確定〉
女神の行動に非難が集まる。
「違うもん! これは私が覚えたんだから私の技だもん!」
〈いやいやいや、ダメだろ〉
〈だもん←ウザい!!〉
〈こんなん勝てんくね?〉
〈やりたい放題すぎる……〉
〈神なら何しても良いのかよ〉
「こっからは私が使える力を全部使って、本気で行くから!!」
〈それってハヤテのセリフじゃん〉
〈自称神がパクってて恥ずかしくないの?〉
〈これ以上の本気ってなんだよ〉
〈もう逃げても良いんじゃないかな〉
〈そうだな。逃げるべきだ〉
流石に女神がチート過ぎて勝てない。
一旦逃げるべきというコメントが増えてきた時。
「ロードオブハイドラ! ルーツエンドオーバー!!」
〈はぁぁぁ!?〉
〈ど、同時使用もできるの!!?〉
〈やばいやばい、ヤバいって!!〉
〈確かここってドアに触れないと〉
〈あぁ、離脱できない〉
FWOではボス戦の途中で逃げられるものと、討伐するか負けて全滅するしかないものの2パターンがある。フローラは本来、ボス部屋の扉に触れることで離脱が可能な敵だったのだが、その扉にアクセスできなくなってしまった。
つまりハヤテたちに逃げるという選択肢がなくなったのだ。
「チート使ったことを今すぐ全力で謝るなら、許してあげなくもなくもないわ!」
〈許してくれるのかくれないのかどっちだよ!?〉
〈こいつやっぱりバカだろ!〉
〈馬鹿女神!!〉
〈てかハヤテたちはチートなんか使ってねーよ!〉
世界中から女神へのアンチコメントが書き込まれる。
〈痛いかもしんないけど、一回死んで逃げるべきだ〉
〈蘇生薬は用意されてんだろ〉
〈買うのにお金がいるならまた投げ銭するからな!!〉
現状で最強のボスが、更に上位のダンジョンボスの大技をいくつも使ってくる。そんな諦めるしかない状況に、希望を持つ人はいなかった。
いくらハヤテでも流石に今回は無理だ。
誰もがそう思った。
〈あ、あれ? ハヤテ君、笑ってるよ〉
ひとりの女性視聴者が、口元に笑みを浮かべる颯に気付いた。
〈ヤバすぎておかしくなったか?〉
〈まだ、なんか可能性があんの!?〉
〈信じちゃっても、良いのかな?〉
〈この状態から入れる保険があるんですか!?〉
「魔法スクロール発動、召喚!!」
展開された魔法陣が眩く輝き、その場に現れる5人の攻略者。こことは別のダンジョンで颯たちより先に中ボスを倒し、こうして颯に召喚されるのをずっと待っていた龍之介たちだった。
〈──っ!!!!!!!!〉
〈こ、ここっ、こここいつらぁぁあ〉
〈仲間の召喚!?〉
〈なるほど! その手があったか!!〉
〈中ボスを余裕で撃破した戦力の追加でーす〉
〈頼もし過ぎるwwww〉
〈きちゃぁぁああああああ〉
希望が見えた。お通夜ムードだったコメント欄が一気に活気づく。更に颯はそれだけで終わらせない。
「みんな、最初から全開でこの場を乗り切るよ!」
〈あっっ!! このポーズは〉
〈えっ、えっ!?〉
〈やっちゃう? やっちゃうの!?〉
〈ハヤテ最高すぎww〉
〈盛り上げ方がわかってるねぇ〉
「「「闘気、 解 放 !!」」」
9人が赤いオーラを纏った。
それは女神自身が定春に命令して設定させたもの。短時間という制限付きだが、使用者の身体能力やスキルが大幅に強化されるシステム。
闘気解放を使いこなせる攻略者はまだ多くない。しかしハヤテ式ダンジョン攻略講座のヘルモードを修了した彼らは、全員が闘気解放の使い手である。
〈カッコいいんだけどさ〉
〈このポーズなぁ…〉
〈めっちゃ厨二クサいwwwww〉
〈戦隊ものかよwwww〉
〈いやいや、くっそアツいだろww〉
〈うん。激熱〉
〈確変入りましたわ〉
〈勝ったな〉
〈あぁ〉
〈↑この流れ好きwww〉
「な、なによそれ? アンタたちなんなのっ!?」
自分で実装させたシステムだが、その力が自身に向けられる可能性があることを完全に失念していた女神は激しく狼狽える。
〈お前がチートしまくるからだろ〉
〈ハヤテも流石にキレてたんじゃね〉
〈ウンディーネに続きフローラも穢しやがって〉
〈おしおきタイムの開始です!〉
〈やっちゃえ、ハヤテ!!〉
最強の四刀流使いと、彼に鍛えられた8名の攻略者たち。
「さぁ。いこーか!」
颯の言葉を合図に、彼らは女神へと突撃していった。
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【あとがき】
本作を閲覧頂き、ありがとうございます。
あと1話で第3部は完結です。
最近本業のお仕事が忙しく、更新頻度が落ちててすみません…。
お知らせです。
明日(2024年9月17日)から本作のコミカライズがスタートします!
毎週火曜日更新です。
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