第123話
6月中旬。
俺と玲奈はまだ第6等級の攻略に本腰を入れていなかった。というより、もう1か月半くらいダンジョンに入っていない。
直人たちを鍛えるのが楽しすぎたんだ。
彼らは俺が教えたことを完璧に身につけてくれる。ちょっとしたヒントを与えるだけで俺が言いたいことの全容を理解し、自分なりに成長していく。
ハヤテ式ダンジョン攻略講座を開催できる日が待ち遠しくなった。
スミス先生は俺の気持ちに気付き、俺が授業できる日を増やしてくれた。みんなの急成長が見られたおかげでもあるかな。
俺の授業が始まる前は、みんな暗い顔をしている。でもいざ始まれば、全員が生き生きと俺の与えた課題をこなしていく。戦闘に余裕が出来た時とか俺に文句を言ってくるけど、本気で嫌がってるわけじゃなさそうだ。
ちなみにみんなにはアレがハードモードだって言ってるけど、それ実は嘘なんだ。
ハードモードの卒業試練が偽ハヤテを少人数で討伐することだから。
Sランクのみんなは最初からその程度の実力がある。だから俺はハヤテ式ダンジョン攻略講座の『ヘルモード』を開催していた。
俺が忍者の修行をした時と同じように、人間の限界を超える訓練。少しづつ訓練の難度を上げ、気づけば人外と呼ばれるような力が身に付く。
正直に言って、全員がついてこれるとは思っていなかった。
誰かがリタイアしたら止めるつもりだったんだ。それで、まだついて来れる人だけ別で更に特別な訓練をしていく。そんな予定だった。
でもなんか全員がついてきちゃったんだよなぁ。
俺が自分で思っているより教えるのが上手いのか、それともみんなが異常なのか。ちなみに俺は後者だと思ってる。
日本人は昔からその身に神の力を宿しているって聞いた。この国で産まれた全員がそうなる。違うのは神力をどれほど引き出せるかどうかだけ。
俺みたいに忍の力を得た人というのは、何か身体が特別だったりするわけじゃない。一般人より神力を使いこなせているだけってことらしい。
日本に産まれて適性があれば、もしくはちゃんと修行をすれば誰でも神力を解放できる。国民全員が忍としての能力を開花させる可能性があるんだ。
神力が使えるようになることを覚醒と呼ぶのであれば、現時点で俺のクラスメイトたちは全員が覚醒済みになる。
直人だけは俺が強制的に覚醒させた。
一緒にダンジョンに入りたかったから。
さきのんはなんか自力で覚醒してた。
玲奈はずっと俺に付き合ってくれてたから、気づいたらいつの間にかこっち側に立ってた。
闘気解放が実装されて、神力を使っても人外認定されにくくなったことも幸運だった。SNSなどでたくさんの人から『人間じゃねぇ!』とツッコまれていても、実際にバケモノとして拘束されて人体実験とかされることはない。
忍者という特別な力に覚醒した人が日本にいるとバレたら色々とマズいことになるって師匠が言ってたけど、今はそれほど気にしなくても良いらしい。
さて。明日の訓練は何をしよっかなー?
東雲学園の技術者さんたちは俺が希望した戦闘訓練用モンスターを様々な方法で実現してくれる。神様の協力があるからか、出来ないって言われたことはない。
俺がやりたいことは何だってできる。
そろそろダンジョン攻略を再開したい気持ちもあるけど、やっぱりみんなの育成が楽しすぎるから悩んでしまう。
「マジでどうしよう?」
いつまで? いや、どこまでみんなを強くしたら俺自身満足できるだろうか?
そんな悩みを抱えていた時──
【こんにちは~。人類のみなさ~ん♪】
「……これって」
脳内に響くような女性の声。
どこにいても、何をしていても聞こえる音。
この世界にダンジョンを出現させた女神の声が響いた。
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