第121話
東雲学園内部に造られた、Sランク専用訓練施設にて。
「直人、敵の攻撃をまっすぐ受けちゃダメ。その受け方だと武器の耐久値がすぐ無くなるよ。俺がやるから見てて」
訓練用のマシンが放った攻撃を颯が器用に逸らしていく。
「こんな感じで自分にも仲間にも当たらないように逸らすんだ」
「わ、わかった」
なんであんな細くて短い剣で容易く攻撃を逸らせるんだと近衛 直人が疑問を持つが、次々に攻撃が来るせいでツッコんでいる時間などはない。
ひたすら仲間に攻撃がいかないよう耐え続ける。
「うん。そうそう、そんな感じ。あっ、一馬さん。直人への回復はまだ要りません。今使っちゃうと、そろそろ来そうな第四波攻撃をしのげなくなります」
「そうなんっすね。了解」
回復術士の一ノ瀬 一馬にも颯が指示を出す。
「直人は自分の体力管理がかなり正確にできてるんで、本当にヤバくなりそうなら彼から合図があります」
「でも見た目普通なのに高威力の攻撃とかまだ分かんないんで、そーゆーのが来た時は早めに回復下さい!」
「おっけーっす!!」
「次は慎吾さん」
黒崎 慎吾は遠方の敵軍勢に弾の雨を浴びせ、数を削り続けていた。
「俺へのアドバイスは何かな?」
「いい感じの弾幕です。維持してください」
「……みんなにいいとこ見せようと張り切ってただけなんだけど、コレこのままキープしなきゃだめ? そろそろ腕が痺れてきてて」
「いい感じの弾幕です。維持してください」
「いや、あの。腕がですね」
「いい感じの弾幕です。維持してください」
「…………はい」
全属性の魔法を合成した強力な
別の方角で敵を倒して回っていた南雲 龍之介が帰還し、颯に詰め寄る。
「颯、これは流石に数が多すぎないか!? いつまで続くんだ!」
「さぁ?」
「さぁ──って! ふざけてんのか!!」
「新しく入ったダンジョンで、どれだけ敵が出てくるかなんてわかんないじゃん。終わりが見えてる訓練なんかしてたら意味が無いよ」
彼らは今後、まだ誰も挑戦したことのないダンジョンに入って行くことになる。自分たちが世界で初めて入るということは、情報がなにもないということ。
これまで現実世界に出現したダンジョンはゲームであったFWOの仕様をほぼ正確にトレースしているが、偽ハヤテの様に変更された点も存在する。
今後、女神の気分次第で雑魚モンスターなどの仕様が変わる可能性もあるのだ。
「常に全力で戦うんじゃなくて、効率よく戦って。敵の攻撃を敵に当てて倒せば楽になるよ。龍之介なら受け流しもできるでしょ」
「確かに出来るが、それを
「その集中力、10分は維持できるようになってね」
「じゅ、10分もか!?」
敵の攻撃を受け流すには攻撃ラインを正確に見極め、そのラインに武器を沿わせる必要がある。並大抵の集中力では達成できない偉業を、10分間やり続けろと言う。
「最低10分ね。10分連戦したら一度息をついて、また10分連戦する。これを繰り返せるようになろう!」
「いや、どう考えてもそんなの無理だろ」
「俺は出来るよ」
「う、ぐっ。……あぁ、わかったよ。やりゃいーんだろ!」
「ふぁいとぉー!」
再び敵に突っ込んでいった龍之介を見送り、颯は残りの女性陣の元へ。
「こっちはみんな頑張ってますね」
「私はもうハヤテの無茶振りには慣れちゃったからね」
東雲 玲奈は慎吾の攻撃で削り切れない遠方の強敵を優先的に排除し続けていた。
「正直かなりきついけど」
「颯君が出来るって言うなら頑張る!」
羽鳥 涼香と武宮 葉月はふたりで連携しながら、龍之介とはまた別の方向から迫る敵を撃破している。
残る芽依は──
「わぁ、すっごい集中力」
周囲で戦闘が行われていない時と全く変わらず、彼女は黙々と合成魔法陣を描き、詠唱をしている。
「あ、ごめん! 一発いったぞ!!」
直人が防ぎきれなかった敵の魔法が芽依のそばに着弾するが、それでも彼女は動じていなかった。
自身に攻撃が当たることはないと仲間を信じているのだ。
「みんなを信じてるんだ。特に直人を、かな」
直人は芽依に直撃する攻撃がいかないよう完璧に守っている。
それだけでなく彼は芽依の集中を欠くことが無いよう、彼女を中心にした半径3メートルほどの範囲に敵の攻撃が入らないようにしていた。今回はたまたまミスしてしまっただけのようだ。
「直人もやるね」
「みんなお待たせ! 準備できたよ」
芽依の詠唱が終わった。
彼女の頭上には全属性の魔法が圧縮され、燃えるように輝く玉が出来ている。
「やっとか」
「待ってたっす!」
「あの魔法使える人いるんだ」
「オーラヤバい。強そう」
ちょうどその時、訓練用マシンの第四波が現れた。第三波までの残骸を乗り越え、颯たちに迫ってくる。
「みんな、私を信じてくれる?」
この状況、仲間を巻き込む範囲魔法を行使しなければ休息の間すら得られない。
彼女を信じられるか?
信じるしかない。
クラス全員の心はひとつだった。
「「「もちろん!!」」」
「やっちゃえ!」
「頼むぞ、芽依!!」
「期待してるっすよ」
「せめて半数」
「できれば、全部倒して」
「みんなありがと! それじゃ──合成魔法発動、エクスプロージョン!!」
芽依が球体に向けた手をグッと握ると、球体から強い光線が放たれた。
放たれた環状の光が球体に集約する。
全てが一点に集まり、球体が制止した。
発動失敗かに思えたが、球体にヒビが入ったかと思うと──
その点を起点に、全てを破壊する爆風が吹き荒れた。
「…………えっと。みんな、無事ですか?」
「すっげ。ほんとノーダメだ」
「威力が凄すぎる」
「信じるとか以前の問題でしたね」
「何が起きたか分からなかったよ」
颯たちは全員が無傷だった。
そして仮想敵マシンの出動口も圧倒的威力により破壊され、次の敵が出てこれない状況になっている。
「本当はあと三波来る予定だったんだけど……。まあダンジョンでもこの方法で敵を防げると思うから、とりあえずクリアってことにしとこうか」
こんな感じで、ハヤテ式ダンジョン攻略講座ハードモードの1日目が終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます