第096話 〈匿名掲示板〉


 日本最大級の匿名掲示板。

 そのとあるスレにて。

 

〈お前らニュース見た?〉

〈は? なんの?〉

〈新しい学園のやつかな〉

〈なんでここに書き込むんだよ〉

〈ここダン専だぞ〉


 ダン専とは、ダンジョン攻略情報専用スレッドの略。この世界に女神が出現させたダンジョンの完全制覇を望む有志たちが集い、日々情報交換していた。


〈関係ない話は他でやってもろて〉

〈それが関係あるんだって〉

〈川崎第二高校の跡地にできるやつか〉

〈そうそれ〉

〈川崎第二?〉

〈確か、ハヤテの母校だな〉

〈黒のダンジョンに取り込まれてる〉

〈それを国が利用するんだと〉

〈攻略者を育成する学園を創るらしい〉

〈え、マジ?〉

〈やっとこの国の政府も本気出したか〉

〈ハヤテいるからってのんびりしすぎ〉

〈ぶっちゃけアイツひとりでいいだろ〉

〈それなwwww〉


 女神によってトロフィーにさせられていた人々の救出はもう終わっている。そのため颯たちは攻略速度を落としているが、それでも彼らが世界で最もダンジョン踏破率の高いパーティーだった。

 

〈最難関ダンジョンの踏破をハヤテができても、そのあとダンジョンから資源になるものを回収するのに人手がいるんだよ。今までは財閥の私兵団が主にそうした活動してたけど、これからは一般からも人を集めるってことだな〉


〈そーゆーことね〉

〈既に育成機関を設立した国も多いぞ〉

〈てか日本遅すぎじゃね?〉

〈米国が認める最強がいるのに〉

〈アイツは教師確定〉

〈いやぁ、あれマネできるか?〉

〈きびしいだろww〉

〈日本の労働人口知は4千万人だぞ〉

〈そんだけいりゃ1クラスはいける〉

〈いけるって、なにが?〉

〈ハヤテ級の攻略者を集めたクラス〉

〈アイツ30人いたらヤバいww〉

〈本人とエレーナ抜いて28人な〉

〈28人か。集まるかな?〉

〈なんなら俺らもそこ目指そうぜ!〉

〈今あのレベルの強さがなくても良い〉

〈ハヤテの近くで学べばいいんだよ〉

〈闘気開放って人外の力も出てきたし〉

〈お、なんか少しいけそうな気が〉

〈とりあえずWebで願書出しといた〉

〈あ、俺もそーしよ!〉

〈リンク貼っとくぞ。こっから飛べ〉

〈政府サイトがクソUIだからマジ有能〉


 このダン専スレからは百名を超える入学希望者が出た。



 ──***──


 同様に匿名掲示板のハヤテファンによるスレでも動きがあった。


〈ダン専スレが盛り上がってたけど、新しくダンジョン攻略者を育成する学園ができるみたい。たぶんそこにハヤテ君も行くだろうって〉


〈私も知ってる。その学園って、もとは颯様の母校らしいね〉


〈これSNSで回ってた情報だけど、川崎第二高校の生徒は新しくできる学園への入学を希望すれば入試で加点がある〉


〈え、てことは──〉


〈ハヤテ君はダンジョン攻略者育成学園に入る可能性が高いってこと!!〉


〈で、でも彼は最強だから、いまさら学園で学ぶことなんかあるかな?〉


〈学ぶことがないからこそだよ〉


〈えっ。それ、どーゆー意味?〉


〈学ぶべきことがなくて、彼は配信でいつもダンジョンの解説もしてくれる。つまり彼は生徒じゃなくて、教師として新しい学園に招かれるんじゃないかな〉


〈颯様が、私たちの先生に⁉〉


〈──っ!!!〉

〈それヤバいね〉

〈めっちゃ入りたい〉

〈私も私も!!〉


 女性ファンの多くは、手取り足取りハヤテにダンジョン攻略のいろはを指導される自身の姿を妄想した。


〈まぁ、ハヤテ君だけってことはないだろうけど〉


〈エレーナちゃんも入学するかな?〉


〈でもあの子は颯君よりひとつ学年が下のはず〉


〈東雲財閥のご令嬢だもん。飛び級くらいしそうだけどね〉


〈あー。それはある〉


 そんな感じで盛り上がってきたとき、ひとりの書き込みが雰囲気を一変させた。 


〈颯君は教師になるから関係ないよ。私にだってチャンスはあるはず〉


〈……あら、あなたご新規さん?〉

〈ここのルールをご存じないようね〉

〈身の程をわきまえた方が良いわ〉


 このスレには鉄の掟が存在する。


 それは颯と玲奈の恋仲を見守るという絶対の掟。


 冗談でも颯を玲奈から寝取るなどと書き込みをすれば、スレ荒らしとして通報されてしまう。特にこのスレは団結力が高く数百という通報がされるので、一瞬のうちにBANされてしまう。


〈ごご、ごめんなさい。いまルール文を読みました〉


〈わかればいいの。次からは気を付けてね〉


 ここのルールでは、自ら進んで颯にアタックするのはNG行為だ。しかし彼の方から接近してくるのを避ける必要はないというルールも存在する。そのため颯との接点を増やすべく、このスレにいる多くの女性ファンも新たに設立される学園に入るための情報交換を加速させていった。

 

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