第079話
「そーいえばハヤテって、リアルじゃ闘気解放しないんだね」
人のダンジョン1階層を抜けたところで、玲奈が話しかけてきた。
「うん、しないかな」
FWOがゲームだった頃、ボス戦で本気の戦闘を演出する際に使っていたのが闘気解放。ゲームのスキルでもなんでもない。ステータスも向上しない。
ただ、
FWOにはプレイヤーが使用可能な『ポーズエフェクト』ってのがいくつかあって、それぞれ特定のポーズをすることで身体からオーラを発生させたり出来るんだ。
俺は剣を握った右手を顔の前に持ってきて、その手首を左手で持つポーズで発生するエフェクトを好んで使用していた。
効果は全く無いのに、まるで自身がパワーアップした感覚になれた。
でも今改めて思うと少し恥ずかしい。当時は視聴者さんたちが盛り上がってくれてたから、俺も調子にのってたんだ。
「私はアレ、好きだったのに」
「えっ」
まさかの闘気解放ファンが身近にいた。
「苦戦してた大量の敵モンスターを、闘気解放した後に軽く殲滅していったのは見ていて爽快だった。強すぎるからチート疑惑かけられてたこともあったよね」
「あー。そんなこともあったなぁ」
実際には闘気解放前にわざと苦戦しているように見せておいて、闘気解放って叫んだ後は普通に全力で戦っただけ。ズルいことなんて何もしてない。
「この第5等級が解放された時、エフェクトがいくつか使えるようになったの知ってる? その中にね、あったよ。ハヤテの好きなポーズ」
「おぉ、マジか」
知らなかった。
てか好きなポーズって……。
まぁ、今でもカッコいいと思ってるけど。
「ね、ハヤテ」
玲奈が期待を込めた目で俺を見てくる。
闘気解放しろって無言で言われている。
彼女の前でやるのは流石に恥ずかしいんですけど。てかこの様子、たぶん何千万って視聴者さんが見てるんですけど……。
でも玲奈が好きって言ってくれるなら、やらなきゃダメだよね!
「2層目、玲奈の出番無くなるけど良いかな?」
「うん!!」
玲奈は目を輝かせて即答した。
──***──
2層目に移動してきた。
ここは1層目よりモンスターの数は少ないけど、連携攻撃してくる敵が増える。倒すのに時間がかかると別エリアから人型モンスターが集まって来て、一度に多くの敵と戦わなければいけなくなる厄介な階層。
でもちょうどいい。
四刀流で本気を出すなら最適な場所。
彼女もそれ分かってて、1層目を抜けた後に話しを持ち出してきたんだろうな。
「じゃあ、私は見てるから。もし危なそうになったら援護する」
「うん、よろしく」
玲奈に頼ることなく、この階層を蹂躙して見せよう。
近場にいた人型モンスターに攻撃を仕掛ける。
入口付近の敵は比較的弱いけど、あえて倒さない。
敵が振ってくる斧を躱し、致命傷を与えないように相手の武器だけにダメージを入れていく。そうして戦うこと数十秒。
別の人型モンスターが接近してきた。
1対2の戦闘が始まる。
でもまだ耐える。
攻撃を回避しつつ、武器だけに攻撃する。
1体目の武器が破壊された時、新たに2体の人型モンスターが攻撃を仕掛けてきた。これで1対4の戦闘。武器が無くなった敵は素手で俺に攻撃してくる。
まだいける。
あと少し。
そのまま戦闘を続けると、さらにダンジョンの奥から無数の敵がこちらに向かってくるのが見えた。
よしっ!
人のダンジョン2階層はどんな場所でも同じ敵と戦闘をし続けると、階層全ての敵が集合してしまうという鬼畜仕様。普通はそんなことになる前にモンスターを倒すか、逆にやられてダンジョン外に放り出されるからこの状態になるのは稀。
経験値稼ぎやレア泥狙いで俺みたいにわざとやるプレイヤーもいたけど、ミスってデスペナ喰らう人も多かった。
俺はリアルに出現したダンジョンにいる。ミスればゲームのデスペナルティどころじゃない。本当に死ぬ。蘇生アイテムを保有していると言っても、生身を斬りつけられるのは絶対に痛いから嫌だ。
だから本気をだそう。
本気でこの場を楽しもう。
四刀流の真価を見せてあげる。
「せいっ!!」
マニピュレータを全力で振って俺に群がるモンスターを軽く吹き飛ばした。
吹き飛ばされたモンスターたちが起き上がり、再び俺に向かってくる。その様子を確認しつつ、俺はエフェクトが発生するポーズをとった。
身体の奥から力が沸き上がってきた──気がする。
これこれ! この感じ!
さぁ、行くぞっ!!
「闘気、解・放!」
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