第051話


 その日の夕方。


「だから、ハヤテを返せって言ってるでしょ! それがダメなら、どこに連れていかれたのかぐらいは教えなさいよ!!」


 空港のサービスカウンターで玲奈が颯のことを探していた。


「お嬢様。今日はもうホテルに行きましょう。旦那様には相談されたのですし、調査が進むまで少しお休みされた方が良いかと」


 玲奈の護衛である望月紅羽は周囲に警戒しつつ、この場からの移動を提案する。


 少し離れた場所から彼女たちの様子を監視していた者の存在に気付いていたからだ。玲奈たちを監視しているのも、デイビッドが雇った傭兵たち。彼らは颯に洗脳が効かなかった時の保険だった。しかし颯が無事に洗脳できたので、傭兵たちは既に全員が撤収している。


 監視者が急にいなくなっても、紅羽は安心できないと考えていた。しかし異国の地で恋人が行方不明になってしまった護衛対象の不安な気持ちも分かる。


 そこで彼女はサービスカウンターから動こうとしない玲奈を半ば強引に引きはがし、少し離れた人のいない場所まで連れていった。


「良く聞いてください。颯様なら絶対に大丈夫です。彼はあの服部什造に認められた最強の忍なんですから」


「う、うん。でも……」


「彼より危険なのはお嬢様です」


「えっ、私が?」


「先ほどまで、10人ほどが私たちの動向を監視していました。もしかしたら颯様の行方不明と関連があるかもしれません。お嬢様は、颯様が全力を出せないのはどんな状況だと思われますか?」


「……たとえば、私が人質になっちゃった時とか」


 自身が仕える主が聡明であることに感心する。そして不安げな玲奈を安心させるさせるため、紅羽は笑顔で頷いた。


「その通りです。私たちがこの場を離れ、お嬢様をお守りしやすい場所に身を置くことが彼を助けることに繋がるかもしれません」


「でも、でも。もしハヤテが悪い人に捕まっちゃったとかじゃなくて、普通にこの国の司法機関に捕まってるんだとしたら?」


「その場合でも問題ありません。保釈金を払えば身柄は解放されます。米国内でも東雲財閥はそれなりの権力を持っています。ですからご安心ください」


 裁判で判決が出るまで帰国できなくなるが、颯と一緒に過ごすことは出来る。


「わ、わかった。ハヤテなら大丈夫だよね。私が安全な場所にいた方が自由に動けるよね。なんだったら護衛の人数増やしたりもしちゃおっか」


「ご理解いただき、ありがとうございます。先程は私たちを見ていた連中を追跡できませんでしたが、護衛人数が増えれば不審な人物が現れた際にその後を追うことも可能になります。護衛追加の件は東雲様に打診済みです」


「うん。望月さん、ありがと」


 玲奈はまだ少し不満そうだったが、紅羽たちと一緒に移動を開始しようとした。


「お、お嬢様! こちらをご覧ください」


 移動しようとしていた玲奈をひとりのメイドが引き留め、その手に持つスマホを見せる。


「なにこれ、ダンジョン攻略配信? ──って、ハヤテ? え、なんで!?」


 空港で行方不明になったはずの颯が、どこかのダンジョンにいた。

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