第042話


「ふぅ。さすがに疲れちゃった」

「お疲れ様、玲奈。ちょっと休憩しようか」


 今回もモンスターの大群を被ダメ0で殲滅することに成功した。


 あと残っている敵は偽ハヤテと呼称されるようになった中ボス、そしてダンジョンボスのウンディーネのみ。


「次の中ボス戦どうする? また前と同じ連携で良い?」


 地面に座ってアイテムの整理をしている玲奈に聞いてみた。

 ここまでは順調に泉のダンジョンを攻略することが出来ている。


 やっぱり玲奈との攻略は楽しいな。


「私、中ボス戦は見てても良いかな?」

「えっ、いいけど……。どこか怪我した? 痛いとこある?」


 完璧に守り切ったはず。通信教育で忍者の修行をした俺が、玲奈への攻撃を見逃すはずない、と思う。


 もしかして見逃した攻撃があった? 

 少し不安になる。


「大丈夫。どこも怪我とかしてないよ。ただ私がハヤテの戦闘を見たいなって思ったの。だってこんなに近くにいるのに、ハヤテがカッコよく戦ってるところを全然見られないんだもん!」


 あぁ、そういうことですか。

 承知いたしました。


「わかった。それじゃ少し離れて見ててね。ちなみに瞬殺するか、長く戦闘を見たいか、どっちがお望み?」


「海外の特殊部隊とかプロの格闘家さんたちでも負けちゃうような強敵相手に、どう倒すかの選択肢があるって凄いね。そうだなー。できれば圧倒してほしい。私が目視できるくらいのスピードでお願いします」


「お任せください、姫様」


 その願い、叶えてあげましょう。



 中ボス部屋に入る。

 四刀を携えた人型がいた。


 こいつとの戦いも、これで3回目。


 1回目はマニピュレータが古いモデルで、性能を限界まで引き出すのに慣れるまで少し苦戦した。2回目は玲奈との連携で秒殺してやった。今の俺は、1回目の時に倒した偽ハヤテからレアドロップしたマニピュレータを装備している。装備の性能面で敵に遅れはとらない。


 さて、どんな技で倒すのがカッコいいかな?


 我が姫は『圧倒せよ』と申された。

 圧倒ねぇ……。手玉に取る感じ?

 手ほどきをしてあげる先生的な。


 ……うん、それ良いね。


 なんか強そうだ。

 それで行こう。



 武器を構え、偽ハヤテと対峙した。


 こいつは約1年前の俺の動きを模倣しているみたい。

 あの頃より成長した俺が、今の君に足りないモノを教えてあげよう。


 強く踏み込み、偽ハヤテに突撃する。


 接近してマニピュレータに持たせた剣で刺突を放つ。


 直線的な突き攻撃に対して、偽ハヤテは身体を横にズラして対処しようとした。


「あー。その防御だとさ、次の攻撃に繋がんねーよ?」


 近代忍術の基本である回転を使えば敵の攻撃すら自身の力に変えることが出来る。


「ほら、こんな風に」


 偽ハヤテにわざと剣を弾かせ、その反動で俺が回転して攻撃を叩き込む。


 俺自身の回転力に偽ハヤテの力が加わり、俺の攻撃は容易く偽ハヤテの防御を貫通した。


 偽ハヤテは吹っ飛びながらも空中で体勢を整え、綺麗に着地する。


「吹き飛ばされるのは、敵がくれた力を無駄にしてるってこと」


 そんなの勿体なさ過ぎる。とはいえ1年前の俺はまだマニピュレータを使いこなせていなかったから、このくらい限界だった。


「あとお前、重心を身体の中心にしようとしすぎなんだよ。確かにその方が綺麗に回転は出来る。でも攻撃に威力が乗らない。偏心回転って分かる? 回転の制御が難しくなるけど、攻撃力は上がる」


 ダンジョンの天井まで飛ぶ。


 天井を蹴り、加速して回転しながら偽ハヤテに斬り込んだ。


 この時の回転は最初に身体のそばまで剣を持ってきて回転数をかせぎ、攻撃する直前に剣を身体から遠くに離すようにして攻撃の威力を高める。更に四刀全てを均等に広げるのではなく、偏らせることで回転が偏心して攻撃力は最大まで高められる。


「こんな感じ──でっ!!」


 回避が間に合わないと判断した偽ハヤテが四刀全てを重ねて俺の縦回転斬りを防ごうとする。


 しかし俺はその防御ごと、偽ハヤテを両断してやった。


 コアが割れた音が響く。


「止まってたら俺の攻撃は防げないよ」


 こんな感じでどうでしょう。

 かっこよかったかな?

 圧倒してる感じを演出できただろうか?


 少し不安になって後ろを振り返る。


 ちょうどそのタイミングで玲奈が俺に抱き着いてきた。


「ハヤテ、すごい!! なんか先生みたいで、師匠って感じで凄くかっこよかった!」


 玲奈のテンションが上がっている。

 俺の対応は間違ってなかったようだ。


「玲奈が喜んでくれて良かった。それじゃ、このままボス戦行こうか」


「はーい! ボスとは私も戦うね」

「うん、よろしく」


 ボス戦はどんな連携で行くか話し合いながら、俺たちは先に進んだ。

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