第2部 轟け名声、世界を翔る最強配信者

1章 歌姫救出 in タイ

第039話


 泉のダンジョンから外に出て、そこで待機していた日紗斗の関係者に彼を引き渡した。思いっきりぶん殴ったことに関しては何も言われなかった。


 配信されてたはずだから、怒られることも覚悟してたんだけど……。


 なんにせよ、これで依頼完了だ。


「それで次はどこに行く? ハヤテは次、誰を助けるつもりなの?」


「とりあえずアメリカ。トロフィーが大統領の娘で、ハリウッドでも活躍してる女優さんだって。助け出せたら『玲奈に相応しい男』に結構近づくんじゃないかな」


「もう十分すぎると思うけど……。でも助けてほしいって声がかかってるなら、ハヤテは行くんでしょ? だったら私もついて行っていい? 今回みたいに、足手まといにはならないようにするから」


 玲奈とのダンジョン攻略はとても楽が出来る。偽ハヤテを10秒で倒せるんだ。しかも攻略中の会話が楽しい。俺もできることなら彼女と一緒にアメリカのダンジョンも踏破したい。


 だけど懸念もある。


 アメリカ大統領は俺にダンジョン攻略させるため、玲奈を捕まえて人質にしようとしてたんだ。


 それは俺の師匠によって阻止されたが、この国に特殊部隊を送り込んできたことは確かだった。国際問題とかにならんのかな?


 とりあえず日本政府は動いてないみたい。

 今のところ俺たちに連絡などは無い。


 国は守ってくれない。

 自分の身は自分で守らなきゃ。


 わざわざ危険な場所に玲奈を連れていく必要なんてない。


 師匠に任せるのはちょっと不安。だけど外国の特殊部隊が玲奈を攫いに来る可能性があるなら、師匠の近くにいるのが一番安全だ。


「アメリカにはひとりでいくよ。危ないかもしれないし」


 俺は単身で渡米しようとしていた。


「……トロフィーになってる女優さん、私たちよりひとつ年上の綺麗な人だよね。スタイルも凄くいい」


「もしかして、俺が浮気するって思ってる?」


「そ、そんなんじゃないけど……。ちょっと不安なの。ハヤテはアメリカでもパーティーは組まないんでしょ? ひとりでその人を助け出すことになる。そうしたら、その人が私みたいにハヤテを好きになっちゃうかもしれない。スタイルも良くて美人な女優さんが、ハヤテに迫っちゃうかも。私は、そんなにスタイル良くないし」


 玲奈が胸の前に手を当てて、今にも泣きそうな顔をしていた。


 まさか自分が負けるとでも思ってるんだろうか。


「美人なおねーさんに何を言われても、俺が好きなのは玲奈だけだよ。って、口で言っても、やっぱり不安だよね。俺たち付き合ってそんなに時間経ってないし」


「ち、違うの! ハヤテを疑ってるとかじゃなくて、私が、魅力ないから」


 はぁ? 

 この美少女、何言ってんすか。


「ギュってしていい?」

「えっ」


 答えは聞かずに玲奈を抱きしめた。


 ダンジョンを走り回っていたはずなのに、凄く良い匂いがする。


 こんなに小柄な彼女が遅れず俺についてきてくれた。


 俺の隣に立つために、ずっと努力してくれたってことも聞いた。


 そのことを想うだけでたまらなく愛おしい。


 自分ではスタイルが良くないって言うけど、こうして抱きしめてると玲奈が着痩せするタイプだって分かっちゃう。結構、おっきいですよ? 俺の好みなサイズ。


 何があっても彼女と別れたくない。

 玲奈に嫌われたくない。


 だから俺の行動はもう決まっていた。


「俺は玲奈が大好きだよ。それを証明する。行動で示す。一緒にアメリカに行こう」


「い、いいの?」


「前も言ったけど、何があっても俺が玲奈を守るよ。だから俺についてきて」


「うん。ありがと、ハヤテ」


「どういたしまして。それによく考えたら俺、英語を話せないからひとりじゃ無理だった。確か玲奈は英語も話せるよね?」


「通訳なら任せて。英語、ロシア語、中国語、ドイツ語ができる」


 日本語も入れて5か国語!?

 ハイスペックすぎません?


「私もハヤテの役に立てるように頑張るね」


「通訳と戦闘支援してくれるので、既に俺は玲奈がいないとダメなレベルです。絶対ついてきて」


「はい。ところでハヤテ、海外には行ったことあるの? パスポート持ってる?」


「海外にはまだ行ったことない。けど今年アメリカで開催されるFWOの大会に出るつもりで、実はパスポート取ってたんだ」


 国内予選は勝ち上がっていた。しかし四刀流が廃止されることになり、大会運営さんには参加辞退を申し出ていた。


「結構配信でお金入って来てるみたいだし、ファーストクラスで行っちゃおうかな。玲奈はいつ頃なら行ける? 早めにアメリカ行きの飛行機予約しなきゃ」


「うちの飛行機を使えばいつでも行けるよ」


 う、うちの飛行機?


「もしかして、玲奈のお父さんがプライベートジェット的なのを持ってる?」


「お父様のもあるけど、のがある。そっち使えばいいよ。実はもう用意させてあるの。東雲財閥が保有する私兵団の戦闘機も護衛につくから安心してね」


 戦闘機の護衛付きプライベートジェットって……。


 玲奈ってマジで俺の常識を超えるお嬢様なんだな。


 そんな怜奈の彼氏として俺がふさわしいって思ってもらうのは、かなり大変かもしれない。でも諦めたくはない。腕の中にいるこの美少女を、俺は絶対手放さない。



 ちなみに離れるタイミングが分からなくて、ずっと玲奈に抱きついていた。


 ダンジョン攻略中は強制配信されてるので、玲奈とこうやってイチャつくことができない。大好きな人がすぐそばにいるのに、気軽にプライベートな会話も不可能。


 ずっと我慢していた分、玲奈から離れようとは思えなかった。


 彼女も俺から離れようとしない。

 今が凄く幸せ。

 

 だからもう少しだけ、こうしていようかな。

 

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