傷痕だらけの私

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第1話

この作品は叶奏様(https://kakuyomu.jp/users/kanade-kanai)の

自主企画「あなたの手で完成させてください!【色を失くした令嬢編】」

https://kakuyomu.jp/user_events/16817330650724415418

の参加作品です。

よって、初めの約20行の文章は私が書いたものではなく、叶奏様の文章です。

また、私自身完結することが今のところ出来ていないので、続きを書いていくつもりです。

最後に素敵な自主企画を作ってくださった叶奏様に感謝を申し上げます。

また、小説家になろう様にも掲載しています。

(https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2071944/)




傷つけたことが不当なものであることは、終始承知していた。

 彼女が努力して学園の首席にいることはわかっているし、それを私が表だっていじめることで他の人が彼女に危害を加えないようにしているのも、全て計画のうちだ。


 ああけれど、いつ私の世界は色を失ってしまったのだろう。

 彼女をいじめることで、周囲から嘲笑われるようになってから?

 あるいは学園に入るずっと前から、私の世界に色なんてものはなかったのかもしれない。


 いじめることも、公爵令嬢として結婚することも、全て社会の望むままに生きてきた。

 婚約者の王太子は言っていた。

 卒業後に聖女の名を授かる予定の彼女と結婚するために、学園では愚かに過ごせと。


 私の心なんてものは、とうの昔に消し去られた。

 そっか、私の世界に色がないのは、心がないからか。

 そっか、……そっか。


 息を吐く。

 冷えた空気に、暖かいかどうかもわからない白色の煙が生まれる。


 今さら心なんてものはどうでもいい。

 ただ一つ、色づく世界を見てみたかった。


 それすらも、きっと、叶わないのだろう。

「......さようなら」 私は一人きりでそう言って、部屋を出た。

扉の前に立つメイドさんは、私を見るなり慌てて駆け寄ってきて言った。

「お嬢様! 大丈夫ですか!?」

「......大丈夫よ」

嘘だった。 大丈夫なわけがなかった。 心がぐちゃぐちゃになって、頭が回らなくなっていた。 もう何もかもがどうでもよかった。

「お着替えいたしましょうか?」

「......ええ、お願いするわ」

私はそう言った。 こんな時だけ自分が貴族だということに感謝した。

「どうかなさいましたか?」

メイドさんに尋ねられる。私は黙って首を横に振った。

「いえ別に」

彼女はそれ以上尋ねようとしなかった。 今はその気遣いさえもありがたかった。「ありがとう。いつも助かっているわ」

私は微笑んでお礼を言った。 心からの言葉だった。

悪人になりたかったわけじゃない。むしろ逆だ。 だけどこうすることが社会にとって最善だったのだ。

「......光栄です」

メイドさんの表情は変わらなかった。 ただ少しだけ口元を緩めて頭を下げただけだった。

「それじゃ......」

言って私は歩き出した。 後ろから彼女の声が聞こえてきた気がしたけど、気づかないふりをして振り向きはしなかった。 それでいいのだ。 私は今生きているのだから。 そうしなければいけなかったんだ。

「お嬢様!」

大声で呼ばれて足が止まりそうになった。

「今日は旦那様の奥様と一緒に晩餐会がございますがいかが致しますか? ご欠席なされるならお伝えしておきますけど」

「出席するわ。伝えなくていいわよそんなこと」

「かしこまりました」

そんなやりとりをしてから自室へと向かう。 私がいなくても時間は進んでいく。 私はベッドに腰掛けると天井を見上げて呟いた。

「......お母様は今頃どうしているかしらね」

そしてまたため息をついて目を閉じた。 まぶたの裏に広がるのは優しいお父様の顔でもなく、厳しい母様の顔でもなく、ただただ優しかった頃のお母様の姿だった。 私の憧れていたあの頃のままの姿がそこにあった。

「......会いたいなぁ」

呟いてから目を開けてみる。 そこには何があるわけでもなく、いつも通りの部屋が広がっているだけでしかなかった。

「......はぁ」

私はため息をついてベッドに寝転ぶとそのまま目を瞑った。 そうしてまたため息をつく。......いつまで引きずっているのだろう? この罪深い自分を許してほしいだなんて思わないし思いたくないけれども......、それでもやっぱり心の中ではどうしても考えてしまう。 どうすればよかったのだろうかと......?

「失礼しますよ」

「えっ!?」

気がついたら部屋に誰かが入ってきていた。驚いて飛び起きてそちらを見る。 しかし誰もいなかった。どうやら気のせいであったらしい。 私はほっと息をついたあとにもう一度布団の中に潜って目を閉じる。

「全く......」

そう言いながらも声は聞こえてこない。 やはりこれはただの勘違いなのだと思ったからだ。だからきっとさっきの声もたまたま聞こえてきた幻聴なのだろう。 私はそう思いながら布団を頭まで被る。 もう眠ってしまおう。そうすれば全部悪い夢だとして忘れることができるだろうと思いながら眠りへと落ちていった。

翌日になり目が覚める。 カーテンの隙間から漏れる光で部屋全体が明るくなっていることが分かる。 私はベッドの中で伸びをするとあくびをしながら立ち上がって着替え始める。

着替えながら今日の予定を思い出していると、コンコンという音と共に執事の声が聞こえてくる。

『お嬢様、お入りしてもよろしいでしょうか?』

「ええ、いいわよ」

扉が開く音が聞こえてくるので私はそれに耳を傾けている。するとそこにはいつものようにスーツを着た執事の姿があった。

「おはようございます」

「おはよう」

挨拶をかわしたあと執事は私の方をじっと見ていることに気がついた。

「......どうかした?」

「いえ、昨晩はよく眠れましたかと思いまして」

そう言われて昨日の夜のことを思い出し顔が熱くなってくるがすぐに冷やす。

「ええ、よく寝たわ」

そう答えると少し安心したように微笑む執事の姿があった。そんな表情を見て少し気恥ずかしくなり顔を背けると執事はそのまま一礼をして部屋を出ていく。

「......」

それからしばらく部屋でぼーっとしているとノックの音と共にメイド長であるカーリーさんが現れる。

「おはようございます。本日は朝食のご用意ができましたので食堂へお越しくださいませ」

「分かったわ」

私が返事をすると同時に扉が閉められ、足音が遠ざかっていく。 私はそれを聞いてから急いで用意された服に着替えていく。 そして鏡を見ながら身だしなみを整えていき、鏡の前で笑顔の練習をしてから食堂へと向かう。 食堂に入ると既にカーリーさんと他の使用人達が集まっており食事の準備を始めていた。

「おはようございます!」

私は大きな声でそう言うと椅子に座っているお父様に向かって走っていく。

私の声を聞いたお父様は微笑んでからこちらに近づいてきて、私を抱き上げてくれる。 席について席に座るとテーブルの上には既に料理が用意されており、席に座った瞬間とても美味しそうな匂いが鼻の中に広がって来る。

「いただきます!!」

そう言って手を合わせて挨拶を済ませた後、目の前にある料理を勢いよく食べ始めた。 そんな様子をカーリーさんは微笑みながら見守っている。

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