24話 暗澹 (3)


イラーマリン騎士団本部 医務室────


私は手に酒瓶と蚊神さんが飲んだビーカーを持ちながらタマルさんに説教されていた。


「全くダメじゃないかお酒なんて持ってたらセイレンさん!」


もう堂々巡りじゃないか!ずっと同じこと言われてるよ。最悪な1日だ!


私はタマルさんのちょっとだけついてる寝癖を見ながらやり過ごそうと決めた。


「それにしても蚊神とか言うやつとそれにあの青年、どこに行ったんだろうな?」


よし!話題変更した!ここだ!


「本当そうですよね!まあでも結果的には蚊神さんは無罪だったし!いいじゃないですか!」


タマルさんは手に被せられた白い布と名刺を持ちながらどうしようか悩んでいる最中みたいだった。


その時だった。本部の大広場のオフィスで銃声が聞こえた。


「ひゃあ!なに?」


私は突然のことでしゃがみ込む。

タマルさんは銃声に驚いて名刺をまた落とした。


「な、なに?銃の音ですよね?今の?」


「ああ多分そうみたいだな」


タマルさんは医務室から出て様子を伺うか。

私の方を見て守ろうとするか。

悩んでいるようで医務室の扉を開けたり閉めたり行ったり来たりしていた。


「と、とにかくえーとあそこにはたくさんの騎士団員がいるはずだな。だからそうだな俺はここ、ここにいることにするよ」


タマルさんは結局、私といるみたいだ。


ようやく立ち上がった私は叫び声も怒鳴り声もまたさらなる銃声もない事に疑問を持った。


「あのータマルさん」


「な、なに?」


タマルさんは私の方を見た。目はまだ焦りで行ったり来たりしていた。


「なんで何も起こらないんですかね?だって銃声があったら普通はそれを止める声とか銃の音聞こえるはずじゃありませんか?」


私はもしかしたら銃声は間違いではないかと思ったのだ。


「それだったら犯罪者どもの声は聞こえるはずだろ?」


タマルさんは見たところ落ち着きを取り戻していて落ちた名刺をポケットに入れていた。


少しして2人の男の声と走る音が廊下に響く。

私はそれを聞きながら留置所に何しに行くのだろう?と思った。


イラーマリン騎士団の医務室は小さくて廊下の一室にあった。その廊下を奥まで進むと留置所があり留置所の横に簡素な取り調べ室があった。


タマルさんは扉を開けて外に出る。


「おい!何があった?」


「マフィアが来てる!」


それだけを言って走り去ってしまったようだった。


タマルさんは急いで医務室の扉を閉める。


「ま、まマフィアがいるって!」


私は出来るだけ扉から離れていた。


少し経ってからまた走る音が聞こえて次に3人の足音が聞こえた。1人はコツコツという音から女性かもしれないと思った。


私は怖くなってベットの下に入り込んだ。

タマルさんはなぜか白い布をベットに被せた。


そのせいで私の視界の半分が白に覆われてしまった。


しばらくの間まるで時間が止まったかのような静寂があって留置所の方から叫び声が聞こえ始める。


「え!なに?もうやだ!」


私は耳を塞いだ。


その直後に銃声音。


タマルは居ても立っても居られなくなり少し考えた後に扉を開けてた。


それがいけなかった。

医務室の扉は設計ミスで引き戸ではなく押して入る扉なのだ。なので外を確認せずに開くと当たる場合があるのだ。


バンッ!


扉に何かが当たる音。


「ッ!誰だ」


タマルさんは大急ぎで戻ってきて白い布を手前に引き寄せて私の視界を完全に真っ白にした。


「べ、ベルルベット・ギルジーニ!?」


タマルさんの驚く声が聞こえる。


え?待ってベルルベット?

それって20区の三分の一を自分の島してるイーサン・コヨーテの手下!

し、しかもしかも!幹部候補なんでしょ!確か!


私は頭を守るように手で押さえながら震えていた。


「……ここで何してる?」


ベルルの低くドスが効いた重い声が聞こえる。


「どうしましたの?ベルル?」


高音でおっとりした声が聞こえる。


「いやブリアンなんか騎士団員みたいなやつが隠れててな……他に誰かいんのか?」


私は震える太腿を押さえて出来るだけ音が出ないように息すら止める。


「だ、誰もいない僕だけだ!」


「名前は?」


「え、ええ?名前?……あ!」


後ろポケットから名刺が落ちる。

それをベルルが拾う。


「タマル・エッグ……か」


ベルルは名刺を二つにする。


「め、名刺が増えた?」


「ほら返すよ」


タマルは恐る恐る人差し指と親指だけで器用につまんだ。



扉が閉まって震えていた私に白い布が取り除かれた。


「あっ」

「もう大丈夫……のはずだよ」


タマルさんの額には大粒の汗が浮き出ていた。


私はベットの下から出て白衣を叩いた。


「今日はこの名刺のせいであんまりな1日だった」


タマルさんは二枚に増えた名刺を見ながら言った。


「もうこの名刺は捨てようかな」


その瞬間、一枚の名刺がもう一枚の名刺に戻って破裂する。


「うわっ!」

「きゃっ!」


私とタマルさんは顔を見合わせて少しだけ笑い合った。


「僕にもお酒もらえないかな?」


「いいですけど共犯ですからね」


私はベットに座って取り出した二つのビーカーにタマルさんの分と自分の分を注いだ。


タマルさんと私の小さな飲み会をしているとビジール団長が医務室の扉を開ける。


「セイレンくん検視してくれないか?」


私はビーカーのお酒を一気飲みして取り調べ室に向かう。


後ろからタマルさんとビジール団長それに近くにいた騎士団員の人達がついてくる。


取り調べ室に入るとダールさんが頭から血を流して死んでいた。


「弾痕から見て45口径の弾薬式魔力銃ですね。力点術師を想定して力点ポイントを発生してもダメージが入るようにしてますね」


私は取れたダールの左足首を見る。


「これは弾が埋まってるので外部から……いやこれはぐちゃぐちゃだ。おそらく弾薬式魔力銃と点能力ポインタースキルですねおそらく。しかもこの点能力ポインタースキルは妨害型というより増強型か補助型の可能性がありますね。皮膚にめり込んでる弾の深さが浅いのでおそらくダールさんは力点ポイントを発生できてますね。それに」


「いやいやそれはいい。点能力ポインタースキルの説明はしなくていい。これは事故ってことにしてくれ」


ビジール団長が手を振って私の話を止める。


「え?事故って完全に」


「うるさい!やめろ!」


私は突然の大声で体をびくつかせる。

ビジール団長は腕を組みながら私を睨んでいた。


「しかし団長これが事故だとすると犯人がマフィアに」


「わかってる!ダールは犯人じゃない真犯人がいる」


タマルさんと私は頭に疑問符を浮かべる。


「ベルルベットさんが真犯人を見つけてくれた」


「はい?ですがダールは自白を」


「だからそれは全部、嘘だったって事だろ!───察しろよ」


最後の察しろよの声だけ初めて本当の事を言ったと私は思った。


「セイレンくんは遺体の状況を検視書に書いてくれ。わかってると思うがその点能力ポインタースキルの事は書かんでいい」


ビジール団長は勢いよく取り調べ室の扉を閉めて残ったのは私とタマルさんとダールさんの遺体だけだった。


「……闇が深いですよね」


私は苦笑いした。


「イラーマリン騎士団はお先真っ暗だよ」


タマルさんは投げられていた椅子を元に戻して座った。


私はこの騎士団の未来に暗澹した気持ちを胸にひっそりと思いながら私が聞いたあの叫び声はダールさんの死に際の断末魔だと気づいてダールさんの遺体にそっと手を合わせた。


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