配信の翌日、事務所での話し合い
「……勝手な行動に出てしまい、本当に申し訳ありませんでした。社長の命令に逆らったこと、反省しています」
配信に乗り込み、ガラシャの救出に動いた翌日、明影は社長室で斧田と面談し、彼に謝罪していた。
頭を下げる明影の左右には環と春香の姿もあり、二人とも不安気な表情を浮かべながらやり取りを見守っている。
そんな中、斧田の隣に座っていた真澄が、青ざめた表情を浮かべながら口を開いた。
「春香さん……あなたも協力してたんですね?」
「ごめん、真澄ちゃん。でも、こうでもしないともう止められないと思ったから……嫌だったんだよ、私も。ガラシャもクレアも自分も、真澄ちゃんだってどんどんおかしくなってた。このままじゃあ事務所がダメになるって思って、それで――」
「……計画を持ち掛けたのはどっちからなんですか?」
「僕です。僕が須天さんに協力を要請しました。責任は、僕にあります」
そう言いながら、真澄へと頭を下げる明影。
そんな彼のことを黙って見つめる斧田へと、意を決して口を開いた環が言う。
「あの……明影のこと、怒らないであげてください。明影は二度もぼくのことを助けてくれたんです。損失とかがあるなら、その穴埋めのために全力で尽力します。ぼくにできることなら何でもしますから、どうか明影を解雇したりするのは止めてください。お願いします」
彼に救われた者として、また彼の姫として、その行いを詫び、庇うように環が頭を下げる。
彼女と、部下である明影の姿を交互に見つめた斧田は深く息を吐くと……静かに、彼へとこう言った。
「明影……私は、お前になんて命令した?」
「……茶緑ガラシャと連絡を取るな、彼女と縁を切れ……です。社長からの命令に背いてしまって、本当にすいません」
沈鬱な表情を浮かべながら、呻くようにして斧田の質問に答える明影。
叱責と処分を言い渡されることを覚悟していた彼であったが、それに対しての斧田の反応は意外なもので――?
「何を言っている、明影。私は、そんな指示は出していないぞ?」
「えっ……?」
斧田の言葉に驚き、顔を上げた明影は口元に小さな笑みを浮かべた彼の表情を見て、再び驚いた。
言葉を失った明影に向け、斧田は静かにこう告げる。
「私が出した命令は一つ、チャンスをものにするために茶緑ガラシャとのコラボを最優先して動け……だ。お前は私のその指示に従って行動したまでのこと。事務所の方針に従ったタレントを、どうして責める必要がある?」
「しゃ、社長……!?」
「今回の件、全ての責任は事務所の代表である私にある。処断されるならば、まずは私からだ。私の指示に従っただけのお前に責はない。胸を張れ、明影。今のお前のことを、私は誇りに思っている。これは、【戦極Voyz】全員の総意だ」
「……ありがとう、ございます……っ!!」
社長である斧田も、スタッフも、同僚たちも、全員が自身の行動に理解を示してくれている。
その上で、全ての責任を被る覚悟はあると告げた斧田の言葉に、明影は先ほどよりも深々と頭を下げて感謝の意を示した。
そして、二人のそんなやり取りを見守っていた真澄もまた、声を震わせながら自分の部下である環へと謝罪の言葉を述べ始める。
「たまちゃん、春香さん……本当にごめん。私が間違ってたよ……大きな事務所に声をかけてもらって、舞い上がっちゃって、これでもっとバズれるって考えで頭がいっぱいになっちゃって、みんなの気持ちなんてこれっぽっちも考えずに動いちゃって……代表として失格だ。明影くんがいなかったら、本当に取り返しのつかないことになってた。本当にごめんなさい。本当に、ごめんなさい……!」
「真澄ちゃん……」
欲に目が眩み、大切なものを見失っていた自分自身の愚かさを振り返りながら、守るべき部下たちを壊す寸前まで追い込んでしまったことへの自責の念に駆られながら、環たちへと頭を下げ、涙しながら謝罪する真澄。
そんな彼女の肩を優しく叩いた環は、ふわりと笑みを浮かべながらこう応える。
「……大丈夫だよ、真澄ちゃん。真澄ちゃんはこれまでずっと、芽が出ないぼくたちのことを支え続けてくれたじゃない。今度はぼくたちが真澄ちゃんを支えてあげる。ぼくも、みんなも、真澄ちゃんも、信用が落ちはしちゃったけどさ……ここからまたやり直していこうよ、ねっ?」
「たまちゃん……! ありがとう。ごめんね、ごめんねぇ……!」
「うわ、泣き顔ぶちゃいく。鼻水つけないで、お気に入りの服なんだから」
優しく真澄を励ましながらも、同時にいつもの毒舌自由人ふうの反応も見せた環が楽し気に笑みを浮かべて彼女の頭を撫でる。
無事に和解が済んだVSP側の面々の会話を聞いた明影もまたほっと安堵のため息を漏らしながら微笑む中、全てのやり取りを見守っていた斧田が口を開いた。
「さあ、問題は山積みかもしれないが……今はそれらが無事に解決することを祈ることにしよう。それよりも明影、これから大変になるぞ? 一年でチャンネル登録者数三十万人を目指すんだろう?」
「は、はいっ! そのつもりです! でも、その前にやらなくちゃいけないことがありまして……」
「……ほう? それはいったいなんなんだ?」
色々と勢い任せのような雰囲気もあったが、あの配信でワタルに向けて切った啖呵は嘘ではない。
一年でチャンネル登録者数三十万人という目標に向け、斧田と計画を立てたいところではあるが……今の彼には、それよりも優先してすべきことがあった。
それはなんなのかと尋ねる斧田に対して、口を開きかけた明影に代わって彼の腕を取った環が答える。
「当然、ぼくたちの一か月記念コラボです! ファンのみんなも期待してるし、もう障害もないわけだし……色々落ち着くまでに打ち合わせして、やっちゃってもいいですよね!?」
「なるほど、それは最優先事項だな。明影、お前のお姫様からのオーダーだ、しっかりと期待に応えてやれ。それが終わったら、また話をしよう」
「はいっ!」
斧田へと力強く返事をしてから、すぐ傍にいる環を見つめる明影。
随分と遅くなってしまった一か月記念コラボを大勢の人たちの期待に応えられるような内容にすべく、彼は幸せそうな笑みを浮かべる環と共に、早速打ち合わせを開始するのであった。
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