明影と環の仲良し大作戦その壱・まずはタメ口から

「にゃっはっはっはっは! 今回もバズったバズった! 流石はぼく! 天才としか言いようがね~な~!」


「はっ! 流石です! ここまでの好評を博しているのも、全て明智殿のお陰でござる!」


「……こたりょ~、まだキャラ抜けてないよ。大丈夫?」


「す、すいません……なんか今回の配信が濃かったので、スイッチが切りきれてなくって……」


 配信終了後、前回を上回る爆発的なチャンネル登録者とSNSフォロワー数の伸びを確認した二人は、笑いが止まらないといった様子で話をしていた。


 上機嫌な環に対して若干の気後れこそ見せているものの、明影もまたこのバズりっぷりをとても喜ばしく思っている。

 自分にはない企画力を持ち、持ち味を引き出してくれる環は、彼にとっても最高のパートナーと呼べる存在だった。


(まさかここまでハマるだなんて、びっくりだな。この勢いを持続するためにも、僕も頑張らなきゃ!)


 寄せられるコメントを見るに、自由なお姫様であるガラシャとそれに振り回される部下の琥太郎という構図が思っていた以上に受けているようだ。

 詫び登録だとか詫びスパチャだなんて単語が生まれるこの界隈、迷惑をかけられることも時にはメリットになるのだなと考えながら、明影はつい二週間前の出来事を振り返る。


 別に、見返りを期待していたわけではなかった。気が付いたら彼女を助けていて、その結果こうなったというだけだ。

 あの小さな行動が想像もしていなかった幸運を運んでくれたことから、やっぱり人助けはするもんだなと自分の善行を自画自賛する明影へと、ひとしきり笑い終えた環が声をかける。


「うぉ~い、こたりょ~。次のコラボの打ち合わせしよ~ぜ~! 熱が冷めない内にバンバンやりつつも、個人での活動も大事にしなくちゃいけないから大変だけどね~!」


「は、はい! 明智さんは何かやりたい企画とかってありますか? 特になければ、また『パラダイスオブデッド』の続きをプレイするのも十分にありかと……」


 二人でコラボをすれば伸びるという結果は出ているが、かといってやり過ぎると飽きられるしファンたちも辟易してしまう。

 最適なタイミング、そして頻度でコラボ配信をすべきだという環の意見に同意しつつ彼女に案を求める明影であったが、それに対して環はやや不満気な雰囲気でこう返してきた。


「あのさ~、なんか堅苦しくない? コラボの時のRPを裏でまで引き摺ることないじゃん。タメ口で話してよ。ぼくら、友達でしょ?」


「えっ? あっ、はあ……」


 口調の……というより、態度全般の固さを指摘された明影が言葉に詰まる。

 正直な話、女慣れしていない彼は異性に対して馴れ馴れしく接することなどできないし、相手が自分より知名度も人気もあるVtuberともなれば、猶更無理というやつだ。


 ここで無礼な真似をして環の機嫌を損ねたくないと思いつつも、このままの態度こそが彼女の不満を招いているということも理解している明影は、少しずつラインを探るように彼女と話をしていく。


「す、すいません。あんまり女性と話すのに慣れてなくって、つい……」


「にゃっはっはっ! まあ、そんなことだろうと思ったよ。こたりょ~、童貞丸出しだもんな~!」


「うぐぅ……」


 否定できない。というより、わかりきっていることだ。

 自分のリスナーである嵐魔衆の面々からも似たようなことを常々言われているし、それほどまでにわかりやすいのかと女慣れしていない自分の情けなさにがっくりと肩を落とす明影に対して、環が励ましの言葉を贈る。


「でも、ぼくはそういう人間の方が好きだよ! ガツガツ来られても対応に困るしね! まあ、ちょくちょくおっぱいを見る癖だけは止めてほしいけどさ!」


「うぇっ!? き、気付いてたんですか……?」


「当たり前じゃん! こたりょ~は知らないかもしれないけど、そういう視線って普通にわかるもんなんだよ?」


「ぐぇぇ……す、すいませんでした……以後、気を付けます……」


「あはははは! そんなに凹まなくてもいいよ! ぼくは昔からそういうふうに見られてるから慣れてるし、こんなに立派なんだから童貞のこたりょ~が気になっちゃうのもわかるしね~! まあ、他の女の胸を見るのは止めとけよ~、っていう姫からのありがたい助言として受け取っておきな!」


「御意にござる……」


 顔から火が出るくらいに恥ずかしかったし、申し訳なかった。

 思えば彼女と対面した時は、結構な頻度であの立派なお胸に視線を落としてしまっていたな……と反省したところで、環が気を遣って話題を切り替えてくれる。


「とりあえず敬語を止めるところから始めてみようよ! こたりょ~とぼくの仲良し計画・第一弾ってことでさ! それくらいならできるでしょ?」


「は、はい……じゃなくて、うん。やれるだけ頑張ってみるよ」


 若干緊張しながらも、環の要望に応えて多少砕けた口調で彼女と会話することを意識する明影。

 彼のその対応にPCの前で嬉しそうにはにかんだ環は、わかりやすく声を弾ませながら話を進めていく。


「うんうん、その調子! じゃあ、このまま次のコラボの話をしよっか! 時期は一週間後とかでいい?」


「あ、うん。そのくらいがちょうどいいよね。明智さんも言ってたけど、あんまり高頻度でやってると飽きられちゃうしさ。僕も復帰から間もないし、個人での活動にも力を注がないとなんで」


「よっし、オーケー! それでなんだけど、そのコラボでやりたいこと……っていうか、ウチの同僚がこたりょ~に会わせろ~! ってしつこくってさ、その二人を交えた四人コラボでもいい?」


「え? 別に構わないけど、どうしてそんなことに?」


 【Virtual Sweet Production】のメンバーからコラボを熱望されているというにわかに信じ難い話に明影が眉をひそめる。

 もしかして、注目が集まっているガラシャと琥太郎の波に便乗しようとしているのか? と考える彼であったが、環からの答えは予想外のものであった。


「ああ、実はさ~、なんかこたりょ~がぼくに相応しい男かどうかを確かめるために面接がしたいんだって。ぽっと出のわけわからん男に大事なたまちゃんを任せられるか~! ってヒートアップしちゃっててさ~! 受けるよね~!」


「えっ!?」


「とりあえずそのコラボでこたりょ~のことを見極めるって意気込んでたよ! いや~、過保護な奴らで参っちまうよな~! っていうかぶぉく、愛され過ぎじゃね? 愛情を注がれるのもここまでくると困っちゃうよ! にゃっはっはっはっは~!」


「えっ? ええっ!?」


 どうやら相手は自分に好意的な感情を持っているのではなく、不信感を抱いているらしい。

 その上で、環の相方として相応しい男かどうかを試しにくると、そう相手側の思惑を教えられた明影が困惑と恐怖の感情を抱く中、彼女は能天気にこう言ってのけた。


「んじゃ、頑張れよ~! 仮に下手こいてぶっ飛ばされても、ぼくは助けないからな~! ガラシャ姫専属の忍としてやっていけるかがかかった大一番だから、気合入れてな! こたりょ~!!」


「き、気合入れてって言われても……!?」


 一難去ってまた一難。彼女と一緒にいる限り、自分に平穏な日々なんてものは訪れないのであろう。

 バズりと引き換えに失った安穏たる日々を思いながら、明影はどうか自分を試そうとしている環の同僚が少しでもまともな人間でありますようにと心の底からの祈りを神に捧げるのであった。

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