魔法時代のエンシェント

告井 凪

魔法時代のエンシェント

プロローグ

プロローグ「この暗闇のエンシェント」


「しかしこの通路、本当に真っ暗だな。罠とかないよな?」

「古代遺跡の罠って、滅亡後に生き残った人が仕掛けたのがほとんどだって話じゃん」

「ここはその人たちすら入ってないんだよね? だったら罠はなさそ~」


 三人の少女が真っ暗な通路を並んで歩いている。真ん中を歩くロングヘアーの少女の手元には、周囲を僅かに照らす光球が浮かんでいた。危険な暗闇を探索する時に使用する魔法だ。

 通路の壁も床も天井も、固い金属のようなもので作られていた。ただそれがどんな金属かはわからない。今とは異なる発展を遂げていたという古代文明が使用していた物質だ。


「三人とも安心するがよい。そもそもわらわがいなければ開かぬ場所じゃぞ? 危険な罠を仕掛ける意味などなかろう」


 少女とは別の声。それはなんと小さな小さな白い犬だ。並んで歩くうちの一人、ショートヘアで中性的な雰囲気の少女に抱えられたその犬は、鞄にすっぽり入ってしまいそうな小ささで、生まれたての子犬のような姿だ。そんな子犬が人の言葉を使って少女たちと会話をしていた。


「そういえばさ、セトアちゃんに聞いておきたいことがあったんだよね」


 もう一人、明るい赤髪の少女が子犬を抱えた少女に問いかける。


「なんだ? アリーア。突然改まって」


 赤髪の少女は真剣な顔で顔を覗き込む。そして、こんなことを聞いた。


「セトアちゃんって犬派? 猫派?」

「……えぇ? なんだって?」

「だからー、猫と犬どっちが好き? って聞いてるの。ちなみにあたしは断然猫派! うちの近くって野良猫が多くってさ~。もうこれがかっわいいんだよ~」

「いや……アリーア。聞き返したのは、まさかこんなところでそんなことを聞かれるとは思わなかったからだ」


 ショートヘアの少女がため息をつくと、三人目の少女が話に乗ってくる。


「ちなみにわたしは鳥派。キョロキョロ辺りを警戒するところとか、とことこ歩くのとかカワイイじゃん?」

「クノティアまで……」

「だってこの通路長すぎじゃん。で、セトアはどっち? 猫? 鳥?」

「ええい、お主ら! わらわが犬の姿をしているのを忘れておらぬか? それなのに猫やら鳥やら……いつの間にかその二択になっておるし! もっと空気を読まぬか!」

「あれれ、嫉妬してる? ポイちゃんそういうの気にするんだ?」

「意外だね。可愛らしいとこあるじゃん」

「やめい、変なことを言うでない!」

「ポイ、安心しろ。私は犬派だから。……空気を読んだわけでも気を使ったわけでもないぞ? 本当だぞ? 信じてくれ」

「念を押すでない! 嘘くさくなってるだけじゃ!」

「えーセトアちゃん犬派かぁ。でも犬も可愛いよね。わかるよーその気持ち」

「三人綺麗に割れたじゃん。ある意味喧嘩しなくて済む……あれ、むしろ喧嘩するやつ?」

「どっちでもいいよもう……私はそこまで強いこだわりないからな」

「セトアちゃん恥ずかしがらなくたっていいよー? かわいい犬が好きなのはおかしなことじゃないって」

「照れ隠しじゃん」

「そ、そういうんじゃないって!」


 和気藹々と、真っ暗な通路を進む三人の少女。と、一匹の子犬。


「お主……もう少し緊張感を持ってもよいのだぞ?」

「わかってる! 少なくとも、私はわかってるんだ……」


 少女が真っ暗な通路の先を見つめる。ふざけていた二人も前を向いた。


「だってさ、この先にあるのは誰も見たことのない古代遺跡なんだぞ」



 これは、少女たちが古代遺跡を調べ、世界の真実に触れてしまうお話――。


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