旧人類遺物開発研究室~博士の残した最後の命題~
さつき
プロローグ
ピ・・・ピピ・・・ピ
『心拍上昇・・脳波低下・・ストレス値向上・・・・思考処理速度・・・GHz・・低下・・』
ピー・・・
『-・・感情プログラムA-12994bp・・・一般思考回路接続・・・エラー・・・感情起動回路接続・・・エラー・・・・再起動・・・・負荷数値が危険ラインに抵触していまス・・・これ以上の・・・・許可できません。』
ああ、今回もダメだったか。
目を開けると、コンシェルが顔を覗き込んでいた。
初期の羊型フォルムをそのまま使用しているため、表情からは感情は読み取りづらいが、心配そうな目をしているような気がする。
『ハジメ、お疲れさまデした。大丈夫デスか?・・・ピピ・体調をチェックします。』
コンシェルが物理干渉触手を伸ばし、全身のスキャンを取り始めた。
見た目は二足歩行の【ぬいぐるみ】のようなデフォルメされた羊なだけに、その背中から触手が生えた姿はなかなかに不気味だ。もう慣れたが。
『ピー・・神経接続回路・・異常なし、ストレス正常値移行・・感情記憶容量60.2%・・・思考処理速度8.4Ghz・・正常・・・身体動作回路・・異常なし・・・身体異常なし』
全身をくまなくチェックされ、思わず苦笑いが漏れる。
「ありがとう、体調は大丈夫だ。でも今回もダメだった。感情記憶容量の空きは十分なはずなのになぁ。」
『ハジメは【怒り】との相性が悪イようですかラね。きっとハジメに合うモノが見つかルはずです。ネオから指示されてイる単位は取得できテいますかラ、気長ニ続けましょウ。』
―旧人類感情導入プログラム―
遥か1500年以上前の地球に繫栄していた旧人類の感情を元に作られた思考プログラムらしい。
基本分類は【怒り】、【喜び】、【悲しみ】、【楽しみ】、【嫌気】、【恐れ】、【欲】の7つだが、製作メーカーやバージョン違い、2つ以上の分類を組み合わせたものなど膨大にあり、総数は数千万にもなるようだが、改廃・新規開発が続けられているため実際の数はわからない。
コミュニティに所属するために必須の基礎取得プログラムと所属した後に設定される年間追加取得プログラム数があり、社会生活を送る上での義務となっている。
コンシェルの言う通り、俺は【怒り】の感情プログラムとの相性が悪いらしく、まだ基礎プログラム3つしか【怒り】のプログラムを取得できていなかった。
基礎取得プログラムは基本分類7つ全ての感情を3つずつ取得しなければならないが、追加プログラムについては、分類までは指定されていない。その他の感情でカバーできてはいるため、社会生活には問題ないが、何となく気は塞ぐ。
【怒り】なぁ。基礎プログラムの時にも取得に苦労したんだよな…。
コンシェルがいうように合うプログラムが開発されるまで待つしかないのだろうか。
「…まぁ、考えても仕方ないか。試験記録だけセンターに送信しておいて。少し寝る。」
『・・・承知いたシましタ。・・・センター接続。怒り感情プログラム【A-12994bp】導入試験記録をセンター送信。』
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