第14話 刺客
アンさんがシャルたちと一緒に大浴場へと行っている間に、僕は部屋に備え付けられた小さな浴室を使用する。
その後は、ソファーでまったりとしていた。
扉がノックされ、「はい」と返事をすると、従業員のお姉さんたちが入ってくる。
彼女たちは、テーブルに七人分の料理を綺麗に並べていく。
責任者と思われるお姉さんが、指を差しながら確認を終えると、「失礼しました」と頭を下げ、部屋を出て行った。
僕はパソコンをいじりながら、皆が来るのを待つ。
再び扉がノックされ、シャルたちが顔を赤らめて部屋へと入って来た。
ガウン姿で頭にタオルを巻いた彼女たちは好きな席へと座っていく。
彼女たちから香油の香が漂い、部屋に充満していく。
自分の部屋なのに、女性の部屋にお邪魔しているような居心地の悪さを感じる。
食事中は、彼女たちが前屈みになるたびにガウンの胸元が開き谷間が顔を覗かせ、僕は目のやり場に困り、食事に集中できなかった。
ケイトだけがこちらを見て、ニンマリと怪しい笑みを浮かべている。
彼女のことだから、きっと、ろくなことしか考えていない。
食事が終わり、雑談をしていると、シャルが立ち上がった。
「明日は野宿になります。皆もそのつもりで、今日は身体を休めるようにして下さい」
「「「「「「はい!」」」」」」
しばらくして、皆がそれぞれの部屋へと戻って行くと、僕はアンさんと二人きりになったことで、緊張していた。
「フーカ様、明日も早朝の出発になります。今日は早く就寝いたしましょう」
「ひゃい! そ、そうしましょう」
緊張している僕をクスクスと軽く笑ったアンさんは、おもむろに寝間着へと着替えだした。
デリカシーのある僕は、彼女を背にするように外を眺める。
窓には、彼女の
普段はクラシックなメイド服で分からなかったが、そのスタイルは見事なものだった。
しかし、太腿と脇腹にある大きな傷が彼女の完璧なスタイルを邪魔している。
「うーん」
僕はその傷が気になって、唸ってしまった。
「フーカ様、どうかしましたか?」
「太腿と脇腹にある傷がどうしても気になって……。アンさんも戦場に出ていたの?」
「覗きですか?」
しまった!
僕は慌てて、思ったことをそのまま口にするしかなかった。
「断じて違います……。たまたま、窓に反射しているのを見てしまって、綺麗なのに残念だなと思って……」
「えっ? 綺麗ですか? えーと、スケベですね」
彼女は顔を真っ赤にして、しどろもどろとしていた。
仕草と言っている事が少し違う気もするが、その様子はとても新鮮だった。
「凄い魅力的なのにもったいないなと……。別にいやらしい意味ではなくて……」
「フフ……冗談です。それに、侍従は身を
「アンさん、その傷痕を治しましょう!」
「えっ? いいのですか?」
「アンさんには、いつもお世話になっているので、そのお礼です!」
「では、お願いします。できれば、レイリアみたいに全身をお願いします」
彼女は少し悩んでからそう言うと、僕の返事も待たずに、胸と腰にタオルを巻き、ベッドへとうつ伏せになってしまった。
「アンさん、下着を付けて下さい!」
「こちらの方が楽ですし、全身を頼んだのですから下着があると邪魔ですよね! それに下着がオイルで汚れてしまいます。タオルだったら、終わった後に、そのままオイルを拭えますから!」
彼女の正論に、僕はぐうの音も出なかった。
仕方なく、僕はリュックからマッサージオイルを取り出し、手になじませた。部屋にフローラルの香りが漂う。
彼女に
その均整の取れた身体に触れると、肌はスベスベで弾力があった。
そして、オイルを広げていくと背中の小さな傷痕が消えていく。
両足へと移り、太腿の裏側の刺された傷痕も消していった。
「仰向けになって下さい!」
「全身をお願いしました。お尻がまだです!」
「そうですが、それはちょっと……」
「フーカ様のマッサージはスタイルが向上するのですから、中途半端にされるとスタイルが崩れてしまいます。フーカ様が私の身体を
「うっ。分かりました……」
僕は意を決して、タオルの
タオルに手を突っ込む方が何だかいやらしい感じがしたが、これはマッサージと自分に言い聞かせて、
「んあっ!」
彼女が声をあげた。
「痛かったですか?」
「大丈夫です。続けてください!」
再び始めると、一度中断したせいか手に伝わる柔らかい感覚に意識が向いてしまい、理性が飛びそうになるのを堪える。
背面を終わらせた僕がアンさんから離れると、彼女は僕が声を掛ける前に、仰向けへと体勢を変える。
再び、彼女に跨ると、目が合った。
さすがにこれは恥ずかしいと思い、近くにあったタオルを取ると、彼女の目に被せる。
「目を合わせながらは恥ずかしいので……」
「ええ、さすがに私も恥ずかしいので、構いません」
彼女のお腹からマッサージを始める。
締まるところが締まっている彼女の身体は、女性から見ても理想なのだろうと思いながら続けていく。
脇腹の傷痕が消えると、両足へと移る。
太腿の傷痕もさすっているうちに消えていったが、太ももの付け根まで手を運ぶのに、かなりの精神を披露させられた。
残すは胸だけとなり、僕は気合を入れるために一度深呼吸をし、パン、パン、頬を叩いた。
「クス……。ごめんなさい。気にしないで続けてください」
彼女に見透かされてしまった。
僕はタオルの中に手を突っ込み、下から上へと持ち上げる。レイリアとは違った凄い感覚が手に襲いかかってくる。
「んはぁん!」
「大丈夫ですか? 痛かったですか?」
「大丈夫です。少し驚いただけです。続けて下さい」
彼女の声が大きかったので、強くしすぎたのかと焦ってしまった。
僕は心を落ち着かせてから、姉ちゃんに「覚えろ!」と強引に見せられたエステ動画を思い出しながら、彼女の膨らみをこねくり回すようにしたり上に押し上げたりした。
「んはぁぁぁ!」
彼女は大きくのけぞって、ぐったりしてしまった。
やりすぎたのかと思い、覗き込むように様子をみると、スヤスヤと寝ている。
大丈夫そうなことを確認すると、彼女の身体に付いたオイルを軽く拭いてから、シーツをかけた。
二回目だからなのか、興奮はしたがレイリアのときほど、頭に血は昇っていなかった。
僕は部屋の灯りを消し、自分のベッドへと潜り込む。
目をつむるとアンの見事な身体が脳裏に浮かんだが、しばらくすると、睡魔が襲ってきたので身を任せるのだった。
◇◇◇◇◇
……カサ、……コト。
何かの物音に眠りを妨げられた。
重いまぶたを少し開くと、大小の黒い
大きいほうの塊からキラッと月明かりに何かが反射するのが見えた。
二つの塊はゆっくりとこちらに近付いてくる。
僕は目をこすり、塊を注意深く観察するが、月明かりでは何なのかまでは分からなかった。
アンさんに目を向けると、ぐっすりと眠っている。
彼女が起きないってことは、人ではないのか? ……お化け!?
「うわっ! アンさん、お化け!」
僕は思わず叫んだ!
二つの塊は僕の声に反応して、こちらへと一気に距離を詰めてくる。
恐怖で、シーツを投げつけると、大きいほうの塊がシーツを払いのけて、僕に馬乗りになった。
近くで見ると、塊は黒ずくめの人間だった。
そして、さっきの光ったものは、黒ずくめの者が手に握っているナイフだと気付いた。
「アンさん!!!」
僕は力いっぱい叫んだ。
ナイフが容赦なく振り下ろされ、その刃が迫ってくる。
もう、ダメだ!
僕は、ギュッと強く目をつむって、歯を食いしばった。
「ダメ! 魔皇帝様だ!」
誰かが叫ぶ声がした。
その声と同時に、黒ずくめの者が僕の上から飛びのく。
目を開けると、黒ずくめの者の身体を青白い電気に似たものが走る。
「ぐうっ!」
黒ずくめの者は、うめき声をあげて、苦しみながらも距離を開けてうずくまると、小さい塊が、その者に駆け寄って、背中をさすりだす。
いつ起きたのか、アンさんが僕と黒ずくめの者たちとの間に割って入った。
僕を跨いで立っている彼女の下半身は、タオルが巻かれているだけで、下からは丸見えだった。
僕はここにいては、色々な意味でダメだと思い、ベッドの上を這って壁際に行くと、腰が抜けた身体を起こす。
すると、鼻の中からツーと垂れてくる汁を手で押さえた。
「すみません、油断していました! フーカ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。まだ、未遂だし、ちっこいのが止めてくれたからね!」
「ちっこい、言うな!!!」
ちっこいのが叫んだ。
「覆面をしてるけど子供だよね?」
「ええ、おそらく、少年でしょう」
バン!
勢いよく扉が開け放たれ、レイリアとケイトが部屋に飛び込んでくる。
「フーカ様、アン様、大丈夫ですか!?」
レイリアが声を掛け、その間にケイトが部屋の灯りを付けた。
レイリアは白い上下の下着姿で左手に剣を持ち、ケイトはレースのついた黒い上下で少しセクシーな下着姿だった。
緊急事態なのに、彼女たちの姿に目を凝らしてしまう男の
頭から足まで黒ずくめの二人の刺客はしゃがんだままだ。
すると、少年の刺客がもう一人を庇うようにナイフをかまえて一歩出る。
もう一人は、いまだに苦しんで、うずくまっていた。
ケイトがこちらを見て、青ざめる。
「フーカ様、大丈夫ですか? 直ぐに治療しますから、傷を見せてください!」
彼女は、僕のそばに来ると、確認しようとする。
「大丈夫! 大丈夫だから。これは何でもないから!」
僕は、鼻血と気付かれたくなくて、必死に抵抗した。
「かなり出血してますから、早く見せて下さい!」
彼女は、強引に僕の手をどかし、診察を始めてしまった。
こちらを見て、青ざめていたレイリアは、ケイトが僕のそばに着くと、刺客へと視線を戻す。
「貴様らぁぁぁ!!!」
彼女は激怒し、剣を抜く。
少年の刺客が彼女の威圧にビクつく。
その大声に、僕とケイトもビクついてしまった。
アンさんだけは微動だにせず、二人の刺客を見つめ続けている。
そして、ケイトは僕の診察を終えると、一度、胸と下半身にタオルを巻いた姿のアンさんを見てから僕に視線を戻す。
僕は、思わず、彼女の視線から目を逸らす。
「フフフフフ。人が本気で心配していたのに、このオチは何ですか?」
彼女は悪い顔をしながら、僕を問い詰めてくる。
僕は、目を泳がせながら沈黙を貫く。
「ケイト、何を笑っている!」
「いえ、出血の原因はアン様ですから、フーカ様に怪我はありませんよ!」
「へぇ? アン様が……原因?」
レイリアは変な声を上げて、戸惑いだす。
「フーカ様も男の子だったってことです! フフフ」
「???」
レイリアは困惑した顔でこちらを見続けている。
僕は気まずくなって、顔を背けると、ケイトがニコニコしながら覗き込んでくる。
ケイトに、このネタで遊ばれることが確定した。
「こちらも手荒に扱いたくないので、武器を捨てて降伏して下さい!」
一方で、アンさんが、少年の刺客に説得を始めた。
少年の刺客は、苦しんでいる相棒を一度見ると、そのまま動こうとしない。
僕は迷っているのでは? と思ったが、今は様子を見守ることしかできなかった。
そして、
ふと、彼が僕を『魔皇帝』と呼んでいたことを思い出し、僕が説得すれば降伏してくれるのでは? と脳をフル回転させる。
「えーと、ちっこい刺客さん。降伏してくれれば、後ろの方をお医者さんに見せることを約束するよ!」
「ちっこい、言うな! さっきからバカにしやがって、俺はヨンだ!」
少年を怒らせてしまった……。
「刺客が名乗っちゃダメでしょう……」
ケイトがあきれる。
僕はというと、苦笑するしかなかった。
「コホン。ヨン君、ナイフを捨てて降伏してくれないかな? 君は僕に危害を加えたくないんでしょ?」
ヨン君は、コクンと頷く。
「なら、ナイフを捨てて、その場に座ってくれないかな?」
僕は説得を続けた。
彼は後ろを何度も振り返り、ずっと苦しみ続けている相棒をとても心配している。
「従属魔法で苦しんでるから、魔導士か魔術師を呼んでくれる?」
とうとう、彼が条件を出してくれた。
「ケイト、任せていいかな?」
ケイトは僕の横に立つ。
「私は大魔導士です。従属魔法くらい、直ぐに解除してあげましょう!」
僕たちは、『大』とか付けて安請け合いする彼女をジト目で見つめたが、彼はケイトを大魔導士だと信じたのか、ナイフを捨てて、その場に座る。
それを見たアンさんとレイリアが、彼の相棒を担いでベッドへ横にする。
ケイトはヨンが捨てたナイフを拾い上げてから、ベッドへと向かう。
彼が僕を見上げる。
「魔皇帝様、お姉ちゃんを助けて!」
「君のお姉さんは、助けるよ。でも、僕は魔皇帝じゃないよ」
「魔皇帝様の絵と同じ顔なのに違うの?」
「うん、違うよ。たぶん、他人の空似ってやつじゃないかな。僕は魔皇帝って初めて耳にしたからね」
その言葉に、彼はガッカリしてしまう。
肩を落とすヨン君に罪悪感を感じ、オドオドしていると、アンさんが僕の横に来た。
「ヨン君、顔を見せて下さい!」
彼女の言葉にヨン君が覆面を脱ぐと、銀色の短髪に褐色の肌をした美少年だが幼さが残る顔が現れ、銀色の瞳がとても神秘的だった。
そして、長くとんがった特徴的な耳をしていた。
「ダークエルフ?」
僕が驚きながら聞くと、彼は黙ってコクンと頷いた。
「こちらはダークエルフの女性ですね!」
ケイトの言葉に、僕はベッドに横たわる彼の姉を覗く。
そこには、シニヨンにした銀髪と褐色の肌、美形だが少し野性的な面立ちの女性が横たわっていた。
「うわっ! 凄い美人!」
思わず声を上げると、レイリアとアンさんの冷たい視線が痛いほど注がれる。
ケイトも冷たい視線を向けてきたが、すぐに女性の診察に集中した。
そして、先ほど拾い上げたナイフで首元から胸にかけて服を切り裂く。
「なっ! 黒いサラシだ!」
僕は胸を押さえつけているサラシに反応してしまった。
「フーカ様、少し黙ってて下さい!」
呆れた表情を浮かべたケイトに叱られてしまった。
レイリアとアンさんが、こいつ、何を言っているんだという目で見つめてくる……。
「ごめん。ケイト、続けて!」
「スケベ……」
ケイトは僕にだけ聞こえるように、ぼそりと言うと、作業を続ける。
僕は恥ずかしくなって、手で顔を覆う。
彼女が女性の刺客の胸元に手をかざすと、そこに青の蛍光色で描かれた親指の頭よりも少し大きいくらいの魔法陣が浮かび上がった。
「この魔法陣はすごく複雑ですね……」
「どこで複雑とかが分かるの?」
「魔法陣の線をよく見て下さい」
彼女は、そう言うと魔法陣を指差す。
二重丸に星形の図形、その空いたスペースには、僕の知らない文字がびっしりと書かれている。
目を凝らすと、二重丸と星形を描く線は、細かい筆記体のような文字が線に見えていたのだった。
「二重丸と星形のこと?」
「はい、そこも文字で形成されると解読が厄介なのです」
「大魔導士なんて言って、安請け合いしてたけど、大丈夫?」
「ちょっと、時間はかかりますが、解除はできます」
「そうなんだ。指でこすったら消えそうなのに、面倒くさいね!」
僕は、試しに魔法陣を人差し指でこすってみた。
「あれ? 消えちゃった……。ケ、ケイト、どうしよう!」
「はっ? 何を言ってるんですか? って、何で、半分も消えてるんですか!?」
「ケイト、これ、書き直さないとまずいよね?!」
僕は冷や汗をかきながら、彼女に助けを求めた。
しかし、彼女は口をあんぐりさせてフリーズしている。
「ケイト、戻ってきてー!」
パシーン!
「ケイト! 戻って来い!」
僕の叫び声に反応したレイリアが、叫びながら彼女の頭を叩いた。
「いったぁぁぁ!」
彼女は戻ってきた。
「ケイト、どうしたらいいの?」
僕は、頭をさすっているケイトにすがる。
「もーう、フーカ様のすることは想定外で困るんです。これからは、許可を取ってから行動して下さい」
「ご、ごめんなさい!」
「とりあえず、フーカ様、全部こすって消して下さい」
僕は彼女に言われた通りにする。
「これで、彼女の従属魔法は解除されました。私としては、不本意ですけど!」
彼女は不機嫌だった。
ガシャーン!
僕たちの後方で物凄い音がした。
振り返ると、ヨン君がソファーで首を掻きむしって苦しんでいて、それをアンさんが支えている。
「どうしたの?」
「ヨン君を落ち着かせるためにお茶を出したのですが、いきなり苦しみだして……」
アンさんは苦しむ子供を前にして、その顔を青くしていた。
彼女はいつの間に着替えたのか、今は
僕は、彼女の私服なのだろうかと、その姿に見入ってしまう。
「フーカ様、スケベは後回しにして下さい!」
また、呆れた表情を浮かべたケイトに叱られてしまった……。
ケイトがヨン君の首回りの布をナイフで裂き、手で引き千切ると黒い皮の首輪が現れた。
「この首輪は何?」
「隷属の首輪です。これは従属魔法と違って、使いまわしがきき、従属魔法よりも安価なので、奴隷商などに多く使われている一般的な代物です」
「ヨン君の首が締まってるみたいだけど……」
「おそらく、そちらの女性の従属魔法が解除されたことを感知して、暗殺に失敗したと思った主が、彼の始末にかかったのでしょう。隷属の首輪はどこからでも作動させられますから……」
「何とかできないの?」
ケイトは、彼の首の後ろにある四角い箱に魔法をかける。
「ダメです。首輪が締まるのを魔力を注いで止めるのがやっとです」
彼女は悔しそうな顔をしながらも、魔法をかけ続けていた。
「無理矢理引っ張って外したり、隙間を作って革を切ったりできないの?」
「無理です。そんな簡単に外せたら意味がありません。それよりも、錠を解除して箱を開き、中の魔石を外せればいいんですが……。時間がありません」
彼女は焦りと悔しさからか、少し目が潤んでいた。
その姿に、僕は何か手段がないかと考えを巡らせる。
すると、一つの案が浮かび、リュックからラバー手袋とスタンガンを取りだしてくる。
「何をするのですか?」
「やれることは全部やる! これで壊れてくれればいいんだけど……。電子機器の壊し方を試してみる!」
僕は彼の首と箱の接触面にラバー手袋を何とか挟み込み、スタンガンを放電する。
バッバッバッバッバッ!
凄い音とまばゆい火花が発生した。
「「「「ヒィッ!」」」」
僕たちは、そのすさまじさに驚いた。
「何で、フーカ様も驚いてるんですか!?」
レイリアがジト目で見つめてくる。
「僕だって初めて使ったから、怖かったんだよ!」
僕は、開き直った。
「そんな危ない物を試しで使わないで下さい! 相手は子供なんですよ!」
「ごめんなさい」
レイリアに本気で怒られてしまった。
ポトリ。
首輪が外れ落ちた。
アンさんはその首輪を手に取り、観察する。
「衝撃で中の魔石が外れたみたいですね」
彼女が首輪を軽く振ると、カラン、カラン、と箱から音がした。
「良かったー。ケイト、ヨン君を治療してあげて!」
「はい!」
ケイトが彼の治療を始める。
その様子を少し見てから、レイリアが加勢に来ていた騎士のそばに行く。
「無事、治まったが、今夜は警戒を怠らないように! それと、この件をシャル様たちに報告して下さい」
「はっ!」
兵士は敬礼をすると去って行った。
その間に、ケイトはヨン君の治療を終えてしまった。
「もう、大丈夫ですね。では、お茶にしましょう」
アンさんがお茶を用意してくれたので、僕たちは一服する。
「フーカ様、ヨン君の治療は終えましたが……。雷撃の攻撃魔法を受けてるのですが、どういうことですか?」
「えっ? あちゃー、感電しちゃったか……。あの道具、スタンガンと言って、小さな雷を作って攻撃する武器なんだ。でも、人が失神するくらいの威力に抑えられてるから大丈夫かと思ったんだけど……。まずかったかな?」
「雷撃のほうは大したことはないので大丈夫です。ですが、そんな危険なことを
「それは、このラバー手袋を間に挟めば電気……雷のもとになっている物質を
「なるほど。その『ラバー手袋』を見せてもらってもいいですか?」
「どうぞ」
ケイトにラバー手袋を渡すと、彼女は手にはめてみたり、匂いを嗅いでみたり、伸ばしたりすると、薄い木の板にメモをしていた。
アンさんが、ヨン君をベッドに横たわる女性の脇に寝かせる。
「この二人は解放されたので、逃げ出す事はないでしょう。今日はこのまま、ここで寝かせて、明日にでも事情を聴きましょう」
僕は、頷いた。
「ところで、何故、フーカ様は血を流していたのですか?」
「アン様に欲情しただけです」
レイリアの質問にあっけらかんと答えるケイトだった。
「断じて違う!」
僕は主張した。
「違うのですか? 残念です」
アンさんが、悲しそうに僕を見つめる。
「アンさんは素敵です。でも、欲情とは違って、色々と見えてビックリしてしまっただけであって……」
弁解しようとしたが、うまい言葉が見つからなかったので、余計なことまで言ってしまった。
「そうですか。そういうことにしておきましょう。でも、色々と見られてしまったのですね」
「「ア、アン様……?」」
レイリアとケイトは目を合わせて、ニコニコしている彼女に驚いていた。
そして、二人は僕をジト目で見つめてくる。
「「スケベ!」」
二人は捨て台詞のように言い放つと、立ち上がって、部屋を出て行った。
僕は何とも言えぬ悔しさを
「フーカ様、ベッドが一つしかないのでこちらに!」
アンさんがシーツを持ちあげてベッドに誘ってくる。
僕は疲労が限界にきていたこともあり、抵抗せずにアンさんのベッドに入る。
彼女からフローラルの香りが漂ってきて、その香りを嗅いでるうちに、僕は眠りについていた。
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